11人が本棚に入れています
本棚に追加
翌朝早く、牢番がやって来て鍵を開けた。もちろん釈放のためではない。パオラはジークフリートが助けてくれるのかと一瞬期待したが、無駄だった。
元ツヴァイフェル伯爵一家5人は、鉱山の強制労働所へ送られることになり、牢から出された。パオラの祖父と弟は坑夫として、パオラと母、祖母の3人は鉱山の荒くれ労働者の相手をする。鉱山の強制労働者の多くが慣れないきつい労働で数年以内に健康を害するか、運が悪いと亡くなる。強制労働者の性欲を鎮める娼婦も多くが短期間のうちに性病にかかったり、仕事内容に耐えられなくて精神的に廃人となったりする。元貴族の5人が体力的にも精神的にも1年もつかどうか疑問である。
「早く出ろ! 鉱山行きの荷馬車が待ってるんだ!」
早く出ろと言われても手錠と足枷をかけられたままで早く歩けるはずはない。でも牢番はイライラして一番ノロノロしていたパオラを蹴った。パオラは顔から床に倒れ、鼻血で顔を汚した。牢番は『早く起き上がれ』と更にパオラを蹴った。パオラは痛みと悔しさで涙が込み上げてきて、血と涙と汚れの混じった液体で頬に赤黒い筋が何本もできた。
「嘘よね、こんなの嘘よね?! ジーク、助けて!」
「何言ってるんだ、こんな薄汚い女を王太子殿下が助けるわけないだろう? 戯言言ってないで早くしろ!」
「そんなはずないわ! ジークは必ず助けてくれる!」
「うるせえ! お前、鏡見てないから現実が分かってないんだ。元々、美人でもない上に、ひでえ匂いして最高に汚ねえぞ!」
牢番は、ノロノロとようやく起き上がろうとしていたパオラを蹴り倒した。パオラは号泣して中々起き上がって来なかった。本当なら、牢番はパオラを起こして荷馬車に放り込まなければならないのだが、吐き気を催させるようなすえた匂いのするパオラを牢番は触りたくなかった。
「さっさと起きろ! もう1度蹴られたいのか?!」
パオラはようやく起き上がって荷馬車に乗った。他の5人は既に乗り込んでおり、パオラがぐずぐずしている事によってとばっちりを受けないか恐れていてパオラを罵った。
「なんで早く乗らないのよ! 殴られたらどうしてくれるの?!」
「お母様、ひどいわ。娘の心配をしないの?!」
「母が殴られてもいいって言うの?!」
「うるさい! 黙れ!」
5人は御者に咎められてようやく黙った。
彼らは荷物のように荷馬車で運ばれた。人間が座る場所などない荷馬車では、すぐに全身が痛くなった。ガタガタと走る荷馬車の揺れと身体の痛みは、助けなど来ないことを5人に嫌でも痛感させた。
最初のコメントを投稿しよう!