幕間1 アマーリエの婚約の経緯

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幕間1 アマーリエの婚約の経緯

 アマーリエとジークフリートの婚約は、ジークフリートの父方の祖母王太后ドロテアの意向によるところが大きい。  アマーリエの落馬事故の半年前――  国王フレデリックの私的な会合に使われる応接室に王太后の到着が知らされた。 「王太后陛下のお成りです」  王太后ドロテアは入室するとすぐに人払いをさせた。犬猿の仲の王妃ヘルミネは、例のごとく旅行中であるので、不在だ。  ドロテアの最近の話題は王太子ジークフリートの教育問題か婚約問題で、どちらもフレデリックの頭を悩ませている。ヘルミネは元々ジークフリートに関心を持っておらず、基本的に放任だった。ところが新生アマーリエが目覚める6年前、ジークフリートが8歳、ヘルミネが29歳の時、祖国ソヌス王国の保養地でソヌス王国の改革派貴族のアンドレ・ド・ロレーヌとブルジョワのロベール・リベルテに出会ってから、ヘルミネは突然ジークフリートの教育方針に介入するようになった。  その後、アンドレとロベールはヘルミネの侍従として雇い入れられ、お気に入りのアンドレはヘルミネの愛人とみなされるようになる。だが妻にベタぼれのフレデリックはその事実を信じようとしなかった。  ヘルミネはドロテアの推薦した家庭教師達のスパルタ式教育に不満を持ち、保養地から帰国して早々、久しぶりの閨で家庭教師総入れ替えをフレデリックに懇願した。フレデリックは愛妻の願いを聞き入れ、母ドロテアが留守の隙に家庭教師を総入れ替えした。だが、ドロテアも負けずにヘルミネの留守中に自分の推す家庭教師を滑り込ませ、帰国したヘルミネが解雇させる。ここ何年もその繰り返しだった。  それに加えて去年からはどちらの推薦した令嬢をジークフリートの婚約者にするか喧々諤々だ。ヘルミネは、大嫌いな義母の推薦する令嬢が息子の婚約者になったとしたら相当面白くない。フレデリックには子がジークフリートの1人しかないが、フレデリックの歳の離れた異母弟アウグストは宰相を務め、ジークフリートに次いで王位継承権第2位を持つ。ドロテアはずっと隠されてきた庶子アウグストの存在が公表された経緯を未だに納得しておらず、彼が次期国王になることだけは絶対に許せない。  ジークフリートはまだ十代前半であるにもかかわらず、彼の結婚問題は王国の最重要事項となりつつあった。
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