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「本能では分かっているんだよ、彼女そのものと彼女に関わるものを分けて考えなきゃいけないって。でもどうしても自分の存在も彼女の祖国ソヌスもよく思えない。私の祖父が国王だから、ソヌスは私のルーツでもあるのにね。どうやったらあんなモンスターを作ることができたのか。ハニートラップにかかった父も父だけど、そんな王女を許して婚約者を交換したソヌスの王室が理解できないよ。でもそれを許してなかったら私は生まれていなかった……ハァ……こんな個人的な感情で隣国を本音では嫌うなんて王太子失格だよね……」
「そんなことはありません。個人の感情や本音と王太子殿下としての建前はまた別物です」
「ありがとう……」
感謝の言葉が自然とジークフリートの口からついて出てきた。こんな会話は、パオラとはもちろん、まだ幼い婚約者のアマーリエともできなかった。だが理性で聞きたいことへ話を戻した。
「でも君がソヌス出身でも私は嫌わないよ。君は君、母は母だ」
「え? 私はアレンスブルク出身です」
アーデルグンデの驚いた様子は自然な感じで秘密が漏れて焦っているようには見えなかった。
「隠さなくてもいいよ。私の母がソヌス出身なのは知っているよね? 話し方というか、イントネーションが同じなんだよね」
実際にはアーデルグンデの発音の癖は、余程注意しないと気付かない。それを見分けたのは諜報活動をしているジークフリートやルプレヒトならではだった。
「そうですか? ご存知の通り、私はメラー男爵夫人の実の娘ではありません。母がソヌス出身です。男爵家に引き取られたのは結構大きくなってからですから、母のイントネーションがうつってしまったのですね。自分では気付きませんでした」
「そうか。ごめん、話しづらいことを聞いてしまったね」
「そんな、ジークに謝ってもらう程のことじゃありません。不敬になってしまいます」
「私達の仲なんだ、不敬なんてある訳ないよ」
ジークフリートが王太子である以上、誰にでも軽々しく謝罪すれば政治問題になりかねない。でもジークフリートはその時、自然と謝罪したくなってしまっていた。
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