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27.王の愛妾候補
「殿下、陛下の愛妾候補を見つけました。辺境のオーバーカンプ男爵家のダニエラ・フォン・オーバーカンプ、22歳です」
ルプレヒトはそう言ってジークフリートに白黒写真を渡した。
「なんだこれ? もう少しましな写真はないのか?」
「なにせ隠し撮りですので、仕方ありません。彼女の家は貧しくて懇意にしている写真館がなく、横流しの写真を入手できません。遠くから写真を撮るしかありませんでした」
写真では、質素なブラウスとロングスカートを着て街中を歩いている町娘といった感じだ。顔ははっきりと判別できないが、髪の毛の色は濃く、遠くから写した写真でも出る所が出ている肉感的な身体をしているのが分かる。
「こっちがこっそり描かせた似姿です」
「そっちを先に出せよ」
似姿では無垢で純朴そうな美しい女性といった風情だが、目には意思をはっきりと感じる。彩色によれば髪の毛はブルネットで瞳の色は緑色――ジークフリートの母ヘルミネと同じだ。純真そうな田舎娘といった感じはヘルミネと全く違うが、化粧をしたら化けるかもしれない。
「この似姿はどこまで信用していいんだ?」
「信頼のおける絵師に現地まで行ってもらってこっそり描いてもらいました」
「似姿も盗撮みたいなものか」
「仕方ありません。先方に話を聞いてもらうまでは愛妾候補になっているのを知られてはなりませんから」
なぜダニエラが愛妾候補に浮上したのか、ルプレヒトがジークフリートに説明した。
オーバーカンプ男爵家は、王都から離れた辺境に小さな領地を持っているが、土地が痩せていて人口も少なく、これと言った産業がない。10年程前の飢饉の際に王国からの援助を十分に得られず、ダニエラの両親はなけなしの蓄えを吐き出してしまい、ダニエラと3歳下の弟の社交界デビューの準備すらできなかったので、彼らの顔は社交界で全く知られておらず、貴族の中でしがらみがない。
男爵家は使用人もほとんど解雇せざるを得なくなり、今や何でもやってくれる老齢の執事以外、使用人はいない。そんな状態になっても姉弟の両親は根っからの箱入りで風前の灯火の領地経営以外何もできず、姉弟と執事が家事や庭の手入れ、馬の世話などを分担している。
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