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28.没落令嬢
ジークフリートとルプレヒトの密談の翌週、辺境の領地にいるダニエラ・フォン・オーバーカンプは、立派な封蝋の手紙を受け取った。
「ダニエラ様! 郵便です!」
「ありがとう」
そばかす顔のまだ少年と言っていい郵便配達人は、分厚い上質な紙でできた封筒をオーバーカンプ男爵家の令嬢ダニエラに渡してはにかんだ。男爵家の入口で掃き掃除をしていたダニエラは、箒を塀に立てかけて封筒を受け取り、どこかの貴族の家の封蝋が付いている事に驚いた。
「あら、これ、どこの家の封蝋かしら?! ヴァッカーバート伯爵……?」
封筒に差出人として書いてあったヴァッカーバート伯爵は、ルプレヒトの父の事だが、嫡子が王太子の側近である以外は中堅どころの貴族である。だから社交界にデビューしておらず、貴族の通う学校にも進学できなかったダニエラにはピンと来なかったのも無理はない。
「立派な封蝋ですね。その伯爵様がダニエラ様を夜会かお茶会に招待するんでしょうか?」
「違うわよ。そんな訳ないわ。うちは貧乏な辺境の男爵家よ。デビュタントボールに行くお金もなかったから、私も弟も社交界デビューしてないし、私の覚えている限り、父も母も少なくとも10年は夜会にもお茶会にも出席していないはずよ」
「でもこれ、絶対招待状ですよ」
「そうかしら?」
「楽しみですね! 王都に行く時は僕も休みとりますから、連れて行って下さいね!」
「王都になんて行かないわよ。それより配達大丈夫なの?」
「あ! いけね! 局長にまた怒られる! ダニエラ様、じゃあ、またね!」
郵便配達人の少年は、5歳も年上のダニエラを慕ってくれている。はっきりと告白された訳ではないが、ダニエラも彼の好意を感じていて満更でもない。でも少年は平民で稼ぎもよくない。
ダニエラは、この家を救ってくれる男性と結婚しなければならないのだ。だから両親には、持参金を必要とせずに支度金と援助をくれる男性なら後妻でも何でもいいと再三言ってきた。でも両親はそんな縁談をことごとく断ってしまってダニエラは22歳になった。今や、持参金を払えない貧乏な男爵家の令嬢に縁談を持ち込んでくるのは、一癖も二癖もあって大して資産もない中高年の男性ばかりになってしまった。
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