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1.悲劇の王太子
300人は入ろうかという講義室の最後列でアメリーは船を漕いでいた。
「……アメリー、アメリー!」
隣に座った友人がアメリーを肘でつついて囁いた。
「ん……何?」
「ヤバイよ、教授がこっち見た!」
「大丈夫だよ。一番後ろなんだよ?」
「前から見たら、うちら丸見えなんだよ」
講義室の席は段状になっていて最後列は一番高い。だから前にいる講師からはかえって見えやすい。
「もうどうでもいいよ。ソヌス共和国史なんて興味ない」
「でも必修だよ」
「そうだよね……」
「そこ! 私語は止めなさい!」
2人がコソコソ話しているのが教授の癇に障って怒鳴られ、アメリー達は慌てて口を噤んだ。
アメリーは出身地の旧アレンスブルク王国の歴史に深い興味を持っていても、王国を併合したソヌス共和国――当時はまだ王国だったが――の歴史には興味がない。でも今年入学したソヌス国立大学の歴史学科では、ソヌス共和国史が必修だ。これを落とせば、来年、希望するアレンスブルク王国史のゼミに入れない。それが分かっていても、アメリーは単調な教授の授業にどうしても興味が持てない。
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