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「とにかく、もうこれ以上は引き延ばせないぞ。本来、とっくに実行しているはずだったんだ」
「でもその後、私はどうなるの? 私が彼と2人きりになって彼がそうなったら、私が犯人だって分かっちゃうじゃないの」
「君がやり遂げた暁には、逃げられる準備はしてある。その後、違う人間として生きていけるように何もかも用意しているから安心しなさい」
「でも……」
男は少女が躊躇する様子を見逃さなかった。
「それとも何か? あの男に惚れてしまったか? それがこんなに引き延ばした理由か? 家族が心配じゃないのか? まさか家族よりあの男が大事とは言わないだろうな?」
「そ、そんな……」
少女は動揺を隠せず、テーブルの下に隠れた両手は汗でじっとり濡れている。
「お前がちゃんとするなら、今まで通り家族に危害は加えないし、援助も続けてやる」
「……本当に?」
「ああ、だから今更引き返すのはなしだぞ」
話を終えた男女は別々のタイミングでカフェを出て行った。男の方は平静な様子だったが、少女の方は顔色青く、フラフラと歩いて行った。
それから数日後の7月のある日、ジークフリートはアーデルグンデを自室に招いていた。ルプレヒトももちろんいるが、少し離れて壁際に立って控えている。
「ジーク、たまにはどこか遠くへ出かけない?」
「うん、いいね。どこがいい?」
「バウアーリンクに王家の離宮があるでしょう?」
「狩猟用の館だから、離宮って言うほど大きくないよ」
「でも近くに森や湖があってとても綺麗だって聞いたわ」
「そうだね。きっと君も気に入るよ。――ルプレヒト、8月の初めはどうかな? 何日ならスケジュールが空いてる?」
8月初めはジークフリートの公務が連日入っているが、15、16日は休みをとってバウアーリンクに行けることになった。
「うれしいわ、ありがとう、ジーク。それで……あの……2人きりで……行きたいんですけど、駄目ですか?」
アーデルグンデは、いつもの得意な上目遣いでかわいくねだってみた。だが、その一方で彼女は両手を膝の上でギュッと握っていてその拳は僅かに震えていた。
「うーん、僕には婚約者が一応いるからなぁ。ルプレヒトは連れて行くよ。――な、ルプレヒト?」
「御意」
その日、帰宅したルプレヒトはアマーリエにすぐに手紙を出してジークフリートのバウアーリンク行きの予定を知らせた。

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