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再び
「雪くん」
「なんだ?」
「貴方は何者だったの?」
葉月はそう言って、笑った。
「いつまで経っても年を取らない貴方を、私は、不安に思うこともあったわ。どうしてこの人は私の傍に居るんだろう、どうして私を選んだんだろう、この人は化け物なんじゃないかって。でも貴方は、綺麗で、格好が良くて、最後まで優しい化け物だったわね」
あまり見えない目で、あまり聞こえない耳で、俺と会話をする葉月。
「おばあちゃんと孫に間違えられるくらい年が離れているはずなのにね。私は妻で、貴方は夫だった」
艶を失った白髪、張りを失った肌、少し歪んでしまった歯並び。それでも葉月は、可愛い。
「今日も可愛いよ、葉月ちゃん」
「よくもまあ、飽きずに毎日言うものねえ・・・」
「事実だからな」
天女より、人魚より、美しく、可愛い。
「葉月ちゃんは運命って信じる?」
「信じない」
「じゃあ前世とか因果応報も信じないか」
「信じないねえ」
俺は喉を小さく鳴らして笑った。
「俺達、前世で恋人同士だったんだぜ」
「全く、どれだけ徳を積んだのかしら、私は」
「来世でも恋人同士だからな」
「死んでも一緒の先まで行っちゃうのね」
「そう。永遠に、一緒」
「こんな私のどこが良いのか、本当に謎だわ・・・」
「全部、かな」
「・・・馬鹿な男」
葉月の命が静かになっていく。
「私を不幸にしていたのは、貴方だったのね?」
「幸せな結婚生活じゃなかったって言うのか?」
「とぼけちゃって・・・。もういいわ」
葉月の命が柔らかくなっていく。
「・・・死ぬのは、怖いか?」
「いいえ全く」
「葉月ちゃんは怖いの平気だね」
「怖いのは貴方の執着だけよ」
「駄目かな?」
「まんざらでもないけどね」
「愛してるよ」
「ええ、おやすみなさい」
葉月の命が、穏やかに終わった。
十七年後。
夕暮れ、公園のブランコに座って俯いている葉月。
「こんにちは」
葉月は顔を上げ、俺を見た。
「いつもここに居るね」
「ご、ごめんなさい」
「どうして謝るの? 怒ってないよ」
俺はまた、葉月を救えなかったらしい。
「君、名前は?」
「・・・葉月」
「葉月ちゃん、俺の名前は雪。少しお喋りしよう」
知ってるよ、葉月がいつも俺に一目惚れすること。
まだ知らないよ、毎日可愛くなる葉月の全て。
「・・・よろしく、雪くん」
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