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結婚
「葉月ちゃんは運命って信じる?」
「信じない」
「じゃあ前世とか因果応報とかも信じないか」
「信じないねえ」
俺は小さく喉を鳴らして笑った。
「俺達、前世で恋人同士だったんだぜ」
「私の前世は尼さんかなんかだよ。でなきゃ今世で雪くんと一緒になんてなれないでしょ」
「嬉しいこと言うなよ。またしたくなる」
「バイト前だからもう許してよ」
「来世でも恋人同士だからな」
「死んでも一緒の先まで行くのかあ」
「そう。永遠に、一緒」
「こんな私のどこが良いのか、ほんと謎・・・」
「全部、かな」
「・・・そろそろ準備しなくちゃ」
シャワーはいつも、葉月が先に浴びる。葉月はアルバイトに行く前、テレビを点けてニュースを見ながら準備をする。俺は待っている間、待ち望んだニュースを見て、ほくそ笑んだ。
「葉月ちゃん、もうバイト辞めよう」
「え?」
俺はテレビを指差した。
「あ」
葉月のアルバイト先の従業員が何者かに刺殺されていた。
「え、嘘、」
葉月は唇を震わせ、
「またなの?」
と言った。
「また・・・。私、誰かを不幸にしたんだ・・・」
葉月は項垂れる。俺は葉月を抱きしめる。
「葉月ちゃんのせいじゃないよ」
「そんな・・・」
「葉月ちゃん、こいつ、葉月ちゃんに嫌がらせしてた男だろ?」
「そう、だけど・・・」
「悲しむことはない」
「・・・もう、私、外に出ない方がいいのかな」
俺は葉月が見えないのを良いことに、狼が兎を見つけたような笑みを浮かべた。俺の笑みが葉月の携帯の画面に薄く反射していた。
「俺の稼ぎだけで生きていけるのに、なんで外に出る必要があるんだ? 前から言ってるだろ、葉月ちゃんの『人を不幸にする体質』は変えられないんだから、俺とずっと一緒に居ればいいんだよ」
「雪くん・・・。雪くんは不幸になっても、私のこと、捨てないよね・・・?」
「捨てないよ、葉月ちゃん。愛してる。目に見える形が欲しいのなら結婚しよう。今すぐ市役所に婚姻届けを取りに行こう」
「ほ、本気?」
「俺が葉月ちゃんに嘘を吐いたことあるか?」
「・・・ない」
葉月の携帯が震えた。アルバイト先の店長からの着信だ。
「あ、電話・・・」
「電話が終わったら結婚しよう」
「そう、だね・・・。うん・・・」
こうして俺達は結婚した。
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