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英雄はヒドラが力強く振った二又の尾を鋼鉄の大鎌で防いだ。これまで何十もの首を刎ねの続けてきた鋼鉄の大鎌はすっかりヒドラの血で錆びついていた。それ故に、二又の尾から英雄を守ると言う役目を終えたかのように砕けて折れてしまった。
だが、それと引き換えに二又の尾の片方を切ることが出来た。その切り口には黄金の棒が燦然と輝いていた。ヒドラの尻尾の骨は黄金のように輝いていると言うのか、生意気な。英雄がそう思いながら、黄金の棒を目を凝らして見れば、単なる棒ではないことに気がついた。
剣の柄、それも黄金である。その瞬間、英雄は思い出した。かつて、神より授かりし黄金剣を持ちし男がヒドラに負けて食べられてしまったことを。
今や、頼れる剣はあれのみ! 早めに取らなければ尻尾が再生して黄金剣が筋肉と鱗に覆われてしまう! 英雄は一か八か黄金剣に向かって走り、その柄をしっかり握るのであった。黄金剣は今の今までヒドラの体内にあったもの、勿論ヒドラの血塗れである。
英雄が柄を握るだけでヒドラの血の毒で掌が焼けるように痛みだす。しかし、英雄は痛みに耐えながら黄金剣を引き抜いた。黄金に輝く剣身がその姿を現し、草むらを焼く炎に照らされ本物の日輪のように輝き出す。
ヒドラの百の首が一斉に悲鳴を上げた。耳を劈く程の絶叫を前に、英雄の耳の鼓膜が破れ出血し三半規管が狂い倒れそうになるが、目で見る黄金剣の美しさに魅了されて倒れることを忘れてしまった。
草むらを焼く炎の熱が黄金剣へと燃え移り、その身を熱くする。
燃える剣身の熱は芯を通じて柄へと伝わり、英雄の掌を焼いていく。
毒に焼かれる痛みが本物の熱に焼かれる痛みに変わっただけで、痛みの度合いは変わらないが、むしろ心地が良い!
英雄にとって黄金剣を焼く熱は気付薬のようなもの、気合が入るのであった。
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