プロローグ 英雄はヒドラを退治することで栄光を手に入れた

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プロローグ 英雄はヒドラを退治することで栄光を手に入れた

 英雄は肩で息をしながら巨大な敵と対峙していた。 その敵はヒドラと呼ばれる九つの首を持つ龍で。 ヒドラであるが、沼地のダンジョンの中腹にある草の生い茂った広間に座し、時折ダンジョンを出ては沼地近隣の人間や家畜を丸呑みにして食い荒らす生きとし生けるものに仇なす存在。許されたものではないとして、古来よりこの地域を統治する王によって英雄に討伐命令が下されたのだった。  英雄が戦いを始めた時には九つの首だったのだが、長引く戦いの中で首の数は百の首になってしまっていた。ヒドラは鋼鉄(アダマス)の大鎌で首を刎ねられる度に、その傷口より二つの首を再生させてしまうのだ。英雄は幾度となくヒドラの首を刎ね続けたのだが、「きりがない」と心折れそうになってしまっていたのだった。 英雄はヒドラの全ての首を刎ねれば勝てると短絡的に首を刎ね続けた。 しかし、刎ねれば刎ねる程に首は増えて行くのみ。  ヒドラの攻撃であるが、鋭い牙による噛みつきと口から吐く毒液と丸太のような二又の尾の振り回しの三種類。中でも口から吐く血液混じりの毒液は直接浴びれば皮膚どころか内臓さえも焼かれる程の痛みの中、死に至らしめる程の猛毒。英雄も「これだけはくらってはならぬ」と細心の注意を払って戦っているのであった。地面に吐き出された毒液から毒煙のように立ち上る蒸気の臭いだけでも鼻を刺す程の悪臭、鼻と口を布で覆っていても体は徐々にではあるが毒に蝕まれていくのを感じるのであった。  この戦いを見ていた見聞役は「英雄に勝ち目なし」と判断し、英雄にヒドラ討伐を依頼した王よりの勅命を遂行するのであった。 その勅命は「英雄に勝ち目がないならば、周りの草むらをヒドラごと焼いてしまえ」とのこと。見聞役は英雄とヒドラが戦っている傍で周りの草むらに菜種油を撒き、そのまま火打石(フリント)で火花を散らし、火種とした。 火種は日輪のような炎となり、ヒドラと英雄を囲んだ。後はダンジョンの外から入る風に煽られて双方焼き尽くされるのみだ。 さようなら、英雄! 骨は拾っておいてやる! 見聞役は脱兎の如くダンジョンの外に向かって走っていくのであった。
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