八高線小宮駅AM5:35

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 多摩地域随一の中心都市、同じ八王子市内でも小宮駅はのんびりした農村部の単独駅だが、隣駅の八王子は押しも押されもせぬ中心市街地のターミナル駅だ。駅長も一段級上の「高等官」である。  だが、陸軍施設に近い物流の要であった事が災いし、終戦まで二週間足らずだった今月の始め、遂に空襲の標的となった。駅舎ごと中心市街地が全焼し、多くの犠牲者が出た。  拝島もいよいよ危ない、と噂が出たが間の小宮駅はその辺鄙さゆえに焼け出されずに終戦を迎えている。塞翁が馬、という事なのかもしれない。 「進行を許可しますか」 「そうだな。単機下り、二番線。場内(信号)進行」  駅長は敷島に代わり、指差し確認をしながらテコの指示を行う。 「場内、進行ヨシ」 「△番反位」「△番反位ヨシ」  構内手は駅長の指示したテコの番号を復唱しながら大きなテコを次々と動かした。駅舎の反対側にある対面式ホーム側の下り線にポイントが切り替わり、場内信号の腕木が下りて「進行」を示した。 「場内、進行」「場内、進行ヨシ」  機関士が左窓から身を乗り出して指差呼称すると助手が復唱する。運転側でもヒューマンエラーとの戦いは必須である。。  駅長の誘導に従い、「8851号」のプレートを掲げた単行列車がゆっくりと移動し、下り線に停止した。 「場内、停止」「場内、停止ヨシ」  信号テコが戻され、場内信号は再び「停止」を示した。  駅長は再び信号を確認すると構内踏切を横切り、下り側のホームに渡った。 「おはようございます」  まだ若い単行機関車の機関士が窓から顔を出し、年配の機関助士と共に駅長に敬礼した。
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