八高線小宮駅AM5:35

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「という事は、うちの伝令はそっちに着いたんだね?」「はい」  小宮駅長は念を押しながら、八王子駅長からの補足メモに目をやった。 「なるほど。下り第三列車がこの後に来るのか」 「はい。駅長がすぐに出すと言ってました」 「なるほど、了解だ。ご苦労さん」  働けなくなった二台の「お稲荷さん」にそれぞれ代用閉塞の記録簿が立てかけてある。事務所に戻った駅長は八王子側の方に日付と指導者の富士の名前、列車名「8869下り第三」と書き込んだ。  小宮駅長がやろうとしている「指導式」というのは、通信の途絶した二駅の間で一人の「指導者」を決め「指導者」を乗せた列車のみに通行を許可し、閉塞を行う方法である。  つまりお稲荷さんの発行する通票の代わりに「指導者」自身が通票となるのだ。  駅長が伝令に出した二人はそれぞれ「適任者(指導者候補)」の任も負っていて、八王子に向かった富士は小宮駅長が書いた「下り第三列車指導者」の打合票を持っている。  八王子駅長がこれを承認すると富士は「指導者」に格上げとなる。八王子駅長が発行した「通票券(※)」を持ち、「指導者」の腕章を着けて下り第三列車に同乗、小宮駅に戻ってくる手筈となっている。  これで小宮駅は富士が戻って来るまで同区間に上り列車を出してはならず、八王子駅も小宮駅側から富士が乗った上り列車が到着するまでは続発の下り列車を出せない。これは敷島の向かった拝島駅の上り第四列車側でも同様である。 ※通票券は列車到着時に回収、破棄され、腕章に関しては指導者が解任となった時点で鍵のついた金庫に保管される。
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