八高線拝島駅AM6:30

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 そう。こんな大きな態度をとっている敷島もお約束ネタのように縮み上がるクラも、実はここの駅員ではない。高崎と八王子を結ぶ八高線の隣駅、小宮駅の雇員である。  省線時代の鉄道組織は厳然たる階級制があり、第二次世界大戦末期に徴兵による労働力不足をクラのような未婚女性らで補うようになるまでは純然たる男社会でもあった。  駅長は国家公務員(判任官。主要駅は高等官)であり地元の名士扱いであったが、それ以外の事務職や乗務員など月給制の職員を「雇員」、現場作業担当の日雇い労働者を「手職(傭人とも)」と呼び(駅手、炭水手など「手」がつくところから)待遇や制服なども異なっていた。  敷島はその手職から狭き門を経て雇員に昇進した現場上がりのベテランだ。身体を張る現場時代が長かったせいか生まれつきの地声のせいか、普段話す口調も大声で怒っているようだし、その上思った事をずけずけ言う。  加えて機嫌が悪いと上役以外、誰彼構わず怒鳴り飛ばすし下町言葉よりも荒く早口な上州訛りで味噌も糞もごった煮になった屁理屈をまくし立てる。部下の手職や女性のクラなどはいい標的だった。  たとえそれが自分に向けたものでなくても心理的にはかなり削がれるし、勤めて二年目になるが未だに慣れない。
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