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拝島駅は青梅線や五日市線、三線が乗り入れている大きな駅だが(※)小宮駅より少しばかり多い程度の駅員で貨物扱いも含めた三路線の対応に当たっているはずだ。
しかも鉄路の途中には例の多摩川橋梁がある。最も距離の長い小宮駅への伝令の派遣を見合わせ、小宮駅側から適任者が来るのを待って、八王子同様一任するつもりなのかもしれない。
「うちの駅も人手不足なんだがな」
小宮駅長はため息をついた。
同じ指導者が終日同一区間を担当すれば確かに確実なのだが、それでは駅の仕事が回らない。
田舎の単独駅とはいて乗客も貨物もそれなりにあるし、荒天と通信途絶で予測不能の事態もあり得る。終戦以来、元々の通勤通学や買い出しの客に加えて、国内からの復員と疎開先から帰る客で毎日おそらく開業以来の混雑ぶりだ。ダイヤが乱れた分、さらに輪を掛けるだろう。
「まあ、あそこは駅長も欠員だし期待し過ぎるのは酷か。通勤通学の混雑時間が終わったら交代してもらおう」
駅長は自分自身に言い聞かせるように言った。駅内の人間関係が家族的徒弟制度なら、駅長同士、駅同士の間にもやはり身内意識のような、横並びの連帯感が存在していたのである。
「八王子だって中央線や横浜線を抱えて、仮駅舎で頑張っている。助け合わないとな」
八王子空襲で駅舎が全焼する災難に遭いながら、直ちに列車の運行を再開した八王子駅長の鉄道マン魂を小宮駅長は尊敬していた。
そして都会の駅長らしい知的で洗練された雰囲気と、柔軟性と咄嗟の機転を持ち合わせたスマートさにも密かに羨望の念を抱いていた。
この悪天候下で一本でも列車を多く走らせる事で自分も応えたいーーそんな気持ちがあった。
ふと、事務机で勤怠表を整理しているクラが目についた。
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