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「武蔵君」「はい」
「君、今来た機関車に乗せてもらって、拝島駅まで伝令を頼まれてくれないかね」
「わかりました」
「ついでにね、途中で敷島君を拾ってあげて。富士君は八王子に着いたらしいんだけど、彼はまだ往生してるはずだから」
クラは安堵したように笑顔を見せた。
「はい。よかった。この天気だし心配してたんですよ」
「武蔵君のいいところは気立てが優しいところだね。きっといいお嫁さんになるよ」
駅長も笑顔で頷くと新しい「打合票」を作成した。
「伝言の内容はね……あー、そうだな。今、説明用のメモを書くから。ちょっと待ってね」
駅長は廃棄予定の事務連絡の裏紙を四つ切りにしたメモ用紙に説明の文章を書き、二枚ともクラに手渡した。
「助役が駅長代理か、どちらかが宿直でいるはずだ。これを見せれば内容が伝わるから」
「はい。わかりました」
クラは打合せ票とメモを大事にしまい込むと通学用の合羽を着て駅長と一緒に下りホームに出た。
機関士はクラと同年代くらいの青年で、機関助士は祖父のような歳に見えた。あまりぐずぐずしていると敷島のようにどやされる、と反射的に考えたクラは
「失礼します」
と一礼して急いでホームから乗り込もうとした。
と、二人が揃って「ご苦労様です」と敬礼した。クラは慌てて敬礼を返した。
機関室の出入り口は見た目より床が高く、助士に手を貸してもらってどうにか乗り込む事ができた。
駅長は機関士に口頭で簡単な説明をしていた。
「まあ、うちの女の子に持たせたメモを読んでもらえば向こうはわかるはずだから。それよりうちの駅務係を拾い忘れないように頼むよ」
軽い口調でそう言って機関士を笑わせると駅長は再び敬礼を交わし、信号とポイントの操作のために上りホームに戻った。
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