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「第8851単機伝令者、下り第三列車指導者」
首を傾げながらも、鉄道マン歴数十年にして初めて駅長として単機の伝令を出す事になった小宮駅長は、八王子駅のそれに倣って打合票を記入した。すると今度は拝島駅の駅長代理と少し後から加わった助役が首を傾げている。
「どういう事だ?何で打ち合わせ票が二枚もある?しかも最初の打合せ票の内容と全く違うんだが?」
助役ははっきりと駅長代理に聞いた。が、駅長代理も自信無さそうに
「私も訳がわからんのです。やっと小宮駅から伝令が来たと思ったらそれが二人もいて、全く違う内容を書いてあるもんですから……」
と、ほぼ聞かれた事をオウム返しで答えた。助役はやれやれと言った顔で、
「単機は先に出た伝令を拾って来たんだったな。なら新しい方が正しいんだろう。新しいのはどっち?」
と、敷島に聞いた。
「それは……こいつが持ってきた方ですが」
敷島はクラを顎で指して渋々答えた。
「ふうむ?」
助役は初めてクラに気づいたような顔で、怪訝そうに眉をしかめた。
「『単機8851伝令者、下りの第三列車指導者』……」
助役は渋い顔でもう一度打合せ票を読み直すと
「君、駅長から何て聞いてる?」とクラに詰問するような口調で聞いてきた。
「メモを見せればわかる」のではなかったのか……クラは緊張と困惑でやっと小さなかすれ声を絞り出した。
「いいえ……」
「子どもの使いじゃあるまいし……」
助役は忌々しそうに口の中で呟いたが、駅長代理は少しばかり気遣うような口調で
「君、駅長から『指導員』をやるようにと言われているかい?」
と、聞き直した。
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