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「指導者となると責任も重い。いくら何でも、年端のいかない女の子を適任者として派遣するとは思えないんだが。どう思う?」
助役はクラにもはっきり聞こえる声で、駅長代理に聞いた。
「私もそう思いました」
駅長代理はケロリと前言を翻した。
「小宮駅長は仕事も連絡もきちんとされる方だが、予想外の事続きで動転してたんじゃないかな。ここは予定通り、上りを先に出した方がよくないか」
「そうですね。8851単機は東飯能からの要請で、上り第四を牽引するそうです。その事を伝えたかっただけじゃないですかね」
「そうだな。打合せ票の『下り第三』というのは『上り第四』で、小宮駅長の書き間違いなんだろう」
「あのっ」
思わずクラは声を上げた。駅長代理と助役の二人は一斉に意外そうな、少し億劫そうな視線をこちらに向けてきたし、一件落着とばかりに満足気に頷いていた敷島は、今更何を言うつもりなのだと目を三角にしてクラを睨んだ。
クラは半分後悔したが敷島の方は見ないように、なるべくはっきりしっかりした声で、拝島駅の二人に思い切って訴えた。
「駅長はこんな大変な時に、いえ、大変な時だからこそ余計に、そんな書き間違いをする人ではないと思うんです」
「じゃあ何かい」
当の二人より先に、嫌味たっぷりな口調で横から反論したのはやはり敷島だった。
「後からしゃしゃり出て指導者気取りかよ。女学校出は大したご身分だな」
クラは「そんなつもりじゃ」と口ごもった。
「おいおい。ここで喧嘩してくれるなよ」
駅長代理はうんざりした顔で間に入ったが、
助役は一応クラの話も聞いておこうとは思ったらしい。
「じゃあ、駅長は下り第三列車を先に発車させるって言ってたの?」
と、かなり忍耐を滲ませた声で尋ねた。
「いいえ……私には何も」
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