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またそんなざっくりとした目印を。細かい路地をぐるぐるぐるぐる。草の茂った盛り上がりが左右に長く横たわっているのが目に入った。あれはきっと堤防だ。
草の間をななめに走る小路を立ちこぎで上がると、平たい川が静かに水を運んでいた。しぶきを上げるような激しさはなく、ゆったりと水が太く流れている。
「あれだ、あれ。堰があるんだよ。見て思い出した」
頼むよ。どこまで行き当たりばったりなんだよ。思わず笑ってしまった。
急にやる気のみなぎった竹宮の背中が、ぐんとスピードアップする。まだそんな力が残ってたのか、すごいな。
「ああ、みつけた。あれあれ。あの行燈みたいなライト」
和風な作りの街灯が、これから入る温泉への期待を高めてくれる。やっと汗を流せる。
何軒かならぶ旅館の一軒に自転車をつけた。玄関には竹宮の言う通り、大きな一枚板がかかっていた。旅館の名前が鮮やかな黒でおどる。
「五年ぶりだ」
扉の取っ手に指先をかけた竹宮の、ぽそっとつぶやいたセリフに不安が走る。だけど、なんの連絡もなしに突然訪れた孫の顔を、おじいちゃんもおばあちゃんも覚えていて、驚きと喜びの声を上げた。
「あらまあ、ヒカちゃん、どうしたの」
ヒカちゃんかあ。隣の表情をうかがうと、ちょっと目をふせている。そう呼ばれるのが、はずかしいのかな。
「学校で言うなよ」
やっぱりそうなんだ。
玄関に立ったまま、しどろもどろで説明するヒカちゃんに、おばあちゃんは、ほお、はあ、へえ、と目を丸くしてうなずく。その仕草がとても優し気だった。すっと通った鼻すじが竹宮にそっくりだ。
「話はあとでゆっくり聞こう。とにかくおまえたち、風呂に入ってこい」
笑いをかみころしたおじいちゃんは、指先を家の奥へと、きつつきのように動かした。
磨かれて黒く光る廊下を竹宮についていく。つるつるの板が一歩足を出すたびにきいきいと鳴る。横一面がガラスになった縁側から見える空は、走っているときと変わらずどこまでも青かった。
つき当りの壁に固定された大きな鏡には、自転車に乗る前とはずいぶん様変わりした僕がいた。
まずは服がめちゃくちゃだ。折り目なんてものは完全に消え、太もものところに白い波線がいくつも重なった黒ズボン。タオルを肩にピンで留め、えりがへにゃへにゃのカッターシャツ。
その上には、なまっちろかった頬がすっかり焼き上がり、ほんの少したくましくなった顔がのっている。ただ、帽子で寝かしつけられた坊ちゃん刈りがお笑いで、ぴったりとへばりついたようすは、まるで黒いヘルメット。しかも、ものすごくかゆい。
脱衣場で服を脱ぐ。どれも汗を吸ってどっしり重い。
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