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しかし声をかけても、アルバートが立ち上がる様子がない。
マリネラがもう一度アルバートのほうを見ると、
「嫌だ」
一言だけそう言った。
「なっ?なんですか、今さら。そっちから誘っておいて」
思ってもみなかった返しに、マリネラはただただ困惑する。
(顔はいいけど、何言い出すの、この人)
若干イラッともしてきた。
「じゃあ、踊らないんですか」
「それも困る」
「…はぁ」
「実は、父上がさっきからこちらを見ている。あの灰色のジャケットの」
目線だけ横にチラっと動かしてみると、ワイングラス片手にこちらを見ている体格の良い男性がいた。歳は40代くらいだろうか。
「あぁ、あの渋いお顔の」
「…そうだな。渋い顔だよな。ここで踊らなかったら俺の面目丸つぶれだ」
「…結局、踊るんですか、踊らないんですか?」
「踊る」
アルバートは即答した。
(なら嫌だとか言うな!今の押し問答はなんなの!?)
マリネラは、はぁとため息をついた。
「じゃあ、改めて」
今度は、優しくアルバートの手に自分の手に重ねる。
心なしかその顔が少し嬉しそうに見えた。
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