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「お酒!?」
のどが痺れるように熱い。
それに気持ち悪い。
げっそりした顔でさっきの給仕を探すが、見当たらなかった。
「なに、宮廷舞踏会って何も言わずに未成年に酒を飲ませるの!?」
マリネラが小さく叫ぶと、
「そんなわけないだろ」
目の前に水の入ったグラスが差し出された。
差し出した相手の顔も見ずにグラスをひっつかむ。そのまま、ぐいっと流し込んだ。
「…ぷはぁっ」
はぁはぁとマリネラは肩で息をした。
「あの、ありがとうございます。すっきりしました」
顔を上げると、透きとおった空色の瞳と目が合った。
髪の毛は明るい茶色の癖っ毛、でも顔立ちは
キリリとした男前。
着ているジャケットも高級さがにじみ出ている。
「どういたしまして。というか中身も見ずに口をつけるな。さっきの給仕、ちゃんとそれは酒だと言っていたぞ」
急に責めるように言われて、マリネラはあっけにとられ、固まってしまった。
そんなマリネラを見て、しばしの沈黙の後、
男は少しすまなそうに
「急にまくし立てて悪かった。俺はリットン伯爵家長男、アルバート・ブルワー=リットンだ」
リットン伯爵家は代々国境警備隊を務める武闘派の一族で、王都から最も領地の遠い貴族である。
(…アルバート・リットンって次期隊長とか何とかって言ってなかったっけ)
今度の国境警備隊隊長は、なかなかのいい男だと街で噂になっていたのを聞いたことがある。
(…確かに、悪くないんじゃない?)
「何だ?俺のこと知っているのか」
まじまじと見つめていたのに気づいたのか、怪訝そうにアルバートは言った。
「え、ま、まあ」
「ご令嬢のお名前を伺っても?」
「あっ、私、貴族ではございません。ヴィンセント商会会長ターナーの娘、マリネラ・ビサンテと申します」
「ほう、市民も参加していたのだな」
アルバートが興味深そうに頷く。
(そういえば、話すときは口元隠すんだっけ)
マリネラはにわか仕込みのマナーを思い出し、手袋のはめた右手で口元をおおった。
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