底なし沼のマシュー

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 彼はハズレと思っていたかもしれないが、僕からすると幸運な方であるような気がしてならないのである。何故ならば。 ――……気づいていないのか、この人たちは。  アルヴィンがエレベーターに乗ってから暫くした後。  僕のカメラにははっきりと映し出されていたのだ。――大口を開けたバケモノのようなものに襲われる氷のフロアの者達と、金色の蜂に襲われてボロボロになりながら倒れていく金色のフロアの者達の姿が。  無線機は、繋がっているはずだった。  しかし、仲間想いのはずのアルヴィンが、一切仲間の様子を気にかけていない。悲鳴も何も聞こえない様子で、ずんずんとエレベーターを下へ降りていく。既に、なんらかの認識災害が発生している可能性が高いとみて間違いなかった。  そして、しまいには。 『ぎ、ぎいっ!』  エレベーターから降りた直後。アルヴィンの体は、フロアの床にどっぷりと沈むことになる。同行した他の仲間たちとともに。そして。 『ぎ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』  しゅうううううううう、と煙を上げて、溶けていくアルヴィンたち。強烈な酸の海だったということらしい。彼らは苦しがって暴れるものの、暴れれば暴れるほど体は沼に沈んでいく。その全身を、真っ赤に焼け爛れさせながら。 『た、助けを、助けを呼んでく、れ、フリハ……』  なるほど。  僕は彼の末路を見ながら、必死でメモを取っていた。もちろん、助けなど呼ぶつもりもない。  彼等がもう手遅れというのもあるが、それだけではなくて。 「もしもし、マシューさん?」  僕はすぐに、スマホで連絡を入れていたのだった。 「お送りした発掘調査の皆さまは、全て処分完了ということでよろしいでしょうか?」 『はい。……ええ、いい具合に。ご協力、ありがとうございます、フリハタさん。いやあ、貴方のような、話の分かる地球人の方がいらっしゃって良かった。我々も困っていたのです、食糧不足でしたから』 「ギブ&テイクというものですよ、マシューさん。代わりに、テコリア星人の皆様の技術を教えていただけるのでしょう?こちらとしては大助かりです。今後も、若い調査隊の方々をそちらにお送りしますから」 『それは嬉しい。……いえいえ、いいものですね。秘密の遺跡、なんてものを作ると……興味本位で中に足を踏み入れるのは、若かったり生気に溢れた上質な肉ばかりですから。今後とも、どうぞごひいきに』  僕の夢は、異星人の秘密を解き明かすこと。  例の遺跡の方は失敗したが、こちらは先んじて“持ち主”の了承を得ることができた。  すべてすべて、順調というものである。
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