ふわっと 飛ぶ

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 チャットを切って、ベランダに出る。まだまだ寒いんだけど、なんとなく風に当たりたくなった。刺すような冷たい空気が肺を満たす。  今日は目眩がひどくて、家にいたんだけど。閉じこもると気持ちが塞ぎ込むなあとチャットしたんだが。少しだけ温かくなった。 「ありがとう、サワ」  そう声に出した時、ふと目の端で何か動いた。手すりにテントウムシがいる。まだ起きるには早すぎるんだが。今年は暖冬で気温が乱高下したから、勘違いして起きてしまったらしい。  手すりに障害物はない。この子は延々ベランダを彷徨うのか。だからといって、飛び立ってもまだ餌はいない。どちらを選んでも、苦難でしか……。  苦難かな。それは人間である僕の考えだ。テントウムシは、道を探す。寒いなら自分でじっとできる場所をさがすんじゃないか? ベランダにはこもる場所がない。  そっと手をおき、手にうつったのを確認して人差し指を立てる。  のぼる、てっぺんに向かって。この選択は君を不幸に突き落とすかもしれない。僕にはわからない。  でも、君には道を探して欲しいんだ。次の場所でも、寒さをしのぐ場所でもいい。ここではないどこかへ、羽があるのなら。  指先に来たこの子は、ブワ、と羽を広げて。ふわっと飛び立っていった。  テントウムシの飛び方って、一呼吸おいてから意を決して飛んでいるようで。まるで、人間みたいだな。  殺風景なベランダ。掃除が大変になるから何も置いてなかったけど。 「何か育てようかな。君たちの羽休めになるものでも」  体調がよくなったら、何かプランターの植物を買いに行こう。いっそハーブでも育ててみようかな? 料理に添えてもいいかもしれない。目眩がおさまるのが楽しみだ。今のうちに何買うか考えよう。寒くなったから部屋に入り、スマホで検索を始める。  そんな、穏やかな昼下がり。落ち込んでいた僕の心もいつの間にか、ふわっと飛んでいた。あのテントウムシのように。
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