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ああ、もう私はおしまいだ。
森の中を彷徨う。ここさえ抜ければ街に出れるのに、突如立ち込めた濃霧ですっかり道に迷ってしまった。
食料も心許ない、装備も心細く野営すら難しい。
全ては二日前。私の『鑑定』スキルに但し書きが表記されたのがいけなかった。
『鑑定(めっちゃ)』
鑑定士レベル100、限界突破と共に現れたこの但し書き。何故か全てのスキルが使えなくなってしまったのだ。
教会本部内でも指貫きの鑑定士であった私が一夜にして無能になった。教皇様は憤慨されて、あれよあれよの間に身一つで追放されてしまった。
残酷だろうか?しかし辛い事にその処遇には心当たりがある。
『第三皇女様は……能力を失って御座います』
五年前に、私が行った鑑定である。
神の眷族から無能力者は出てはならない。掟に従い皇女様は追放された。
その結果が、誤りであったかもしれないのだから。
いやまて五年前の鑑定は確かだった。外すはずなどない。
ないが、第三皇女を特に可愛がっておられた教皇様からすれば、時系列などは関係なかった。
故に私は追放された。
私は神の下僕として誠実に生きてきたし、いくら教皇様でも無能を理由に処刑は出来ない。
せめて野垂れ死ねと仰せだ。
「神よ……私は、嘘をつけばよかったのでしょうか…」
項垂れて、ついには信仰を疑う。
「怠惰に生きて、レベルを上げなければ…」
勤勉を悔いる私。
と、
「ヒャッハァ?おぅい野郎共ぉ、品を落としたマヌケはいるかぁ?」
霧の中、下卑た言葉がこだまし、耳障りな笑い声が上がる。
「じゃあこのお坊ちゃんはオレ等のじゃねぇなぁ」
顔を上げると、目の前にはモヒカンヘアの偉丈夫がニヤついた顔でこちらをみていた。
「坊や迷子かい?パパとママはどうしたね」
「ぱ……わ、私はとうに成人した…」
「ヒャッハー!迷子でベソかいてた野郎が大人のつもりだってよ!ご機嫌じゃねぇか、ええ!」
野盗か。
釈明の機会もなく、ついにここまでか。
「さぁ坊や、ヒャッ速だがクエスチョンだ」
絶望する私に、野盗の頭目と思しき男は更に顔を歪める。
「このまま死ぬか、オレ様の奴隷になるか。45秒で選択しな」
まさか、いかに身を落とそうとも奴隷などに。それならまだ死んだほうがマシというものだ。
何か打開策はないかと目を走らせると、野盗の手下、右に控えている女性の顔が目に飛び込んだ。
「……お、おうじょさ、え?」
「おやびん!そんなザコ霧の外に捨てちまおうよ!」
酷く下品な服装と化粧。しかし彼女は確かに、あの第三皇女に相違なかった。
追放の後、皇爵家にてこっそり匿おうとして、何故かそのまま行方知れずとなった皇女様。
生きておられたのか。
「ヒャッハァ!へぇぇ…」
喚く皇女様に目を遣り、何かを察したようにもう一度こちらを向く男。
「なら捨てちまおうかよぉ!」
「ま、待って!待って下さい!」
「ヒャッハ?」
これはチャンスである。寧ろこのためにこそ、神は私のスキルに(めっちゃ)などという意味不明な但し書きをお与えになったのだ。
「ど、奴隷にして下さい。もう霧はたくさんだ…」
どうにか皇女様を解放して、国に連れ帰る。
かの過ちを、なかった事にするのだ。
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