王として

6/6
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
 ブルーノは肩を竦ませ「神使は自分の容姿には無頓着なのか。ま、そこまで整われるとどうでもよくなるかもわからんが」と顎を擦り椅子の背もたれに身を委ねた。 「俺がダンテを初めて見た時の衝撃はわからんだろうな。女神がいるのかと思ったら、男だし、言うことは辛辣で、とにかく素っ気なくてな。あんなに心を打ち砕かれたことはない」  そこで瑠海をチラリと見て、あの時のがお前であれば良かったとため息をついた。 「お次は本物の女神だが、これまた手応えなしだ。神使に振り回される俺を憐れんでサッサと受け入れて貰わないと身が持たん」  実際は憐れむほど落ち込んではいなそうだ。なんせ、表情には余裕がありため息も嘆きも演技なのが伝わってくるのだ。 「嘘つきはダメですよ。全然ダメージなんてうけてないじゃないですか」 「そんなこともないぞ。今すぐにでも手に入れたいが我慢しておるのだ。俺は妻にする女には心を求める質だからな。瑠海が心底俺を求め、愛するようになるようにならなければ意味がない」 「妻……」  発想が飛躍しすぎではないだろうか。何も始まっていないのに妻などというのは早急すぎる。 「まずは──毎日フルーツを部屋に届けるように手配してやろう」  餌付けみたいだと抗議したいが、フルーツは食べたい。ついそれが顔に出たようで、瑠海を見ていたブルーノが笑みを浮かべた。 「ルウは宝石よりフルーツが好きそうだな。それと、ああそうだ。街に連れて行こう。だが、病人に触れることは絶対にいかん。何かこうしたいということがあれば言うがいい。お前の言葉には耳を傾けるつもりだ。病人でなくても俺とダンテ以外の者に触るのはご法度だからな。そこは守らなければならん」  ブルーノは瑠海を把握しているようだった。望むものを正確に理解し、やりそうなことも見透かしている。 「街には行きたいです。この前はほとんど見ることができなかったので──」 「誰のせいだ?」  ブルーノは目を細め瑠海を眺めた。 「も、もちろん、自分のせいだっていうのはわかってます。病人の件はもう少し慎重に行動します」  瑠海はスカートの端を掴んで俯いた。 「アイーダさんにも怒られてしまいました。皆を危険に晒してしまうことはよくわかりましたし」  なんの病気かわからない。それゆえ治療法もわからない。どんな恐ろしい病が潜んでいるかわかっていないのに飛び込んでいくのは危険だと説教されたし、瑠海だけではなくアイーダに連帯責任を負わせてしまったことは心から反省していた。 「アイーダか。アイーダが病に倒れたら弟は孤児院行きだそうだ。我が国ではアイーダみたいな例はいくらでもある。一時期、この国の人口は一気に減少したが、今は元の人数を上回る勢いだ。しかし、若いものが多い。人の子を育てる余裕など皆ない。アイーダのように兄弟の面倒をみているものも多いが、若い人間が子供を養うのは大変なのだ」  そこで言葉を切って、どうしてアイーダを瑠海の世話係にしたのかわかるかと問われた。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!