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第11話 本当の恋愛の始まり―記念に一緒の写真を撮ってください!
火曜日、先輩と廊下ですれ違った。私はイメチェンしたリクルートスタイルだ。すれ違いざまにニコッと微笑む。先輩も笑みを返してくれる。幸せな気分になる。その日の夜に私から電話した。
「昨晩はありがとうございました。ところで次のデートの予定を決めたいのですが、よろしいですか?」
「望むところだけど」
「恋人同志なら月一回はないですよね」
「そうだね。毎日会社で会えるけど、毎週でも外で会って話がしたい」
「それじゃあ、今週の土曜日に鎌倉へ行くのはどうですか?」
「いいね」
「時間と集合場所ですが、早めでよければ、午前8時に溝の口駅のJR方面の出口でどうですか?」
「了解した。楽しみだね」
「お天気になればもっと良いけど」
「雨なら、場所の変更もありで」
「分かりました」
◆ ◆ ◆
土曜日は快晴の上天気になった。少し暑くなりそうだ。私は約束の時間に軽快なスタイルで着いた。
白っぽいスカートにこの前と同じ白いスニーカーを履いて、白い半袖のポロシャツ、ピンクのリュックサックを背負って、ピンクのハットをかぶっている。
先輩はカッターシャツにコットンパンツ、歩きやすいようにスニーカーにしている。二人は気が合うというか、ほぼ同じスタイルになっている。
「お弁当におにぎりを作ってきました。お昼に食べてください」
「いつもありがとう」
二人はJRの溝の口から川崎へ出て、横須賀線に乗り換えて、北鎌倉で降りた。晴天の土曜日だから電車は混んでいたので、話はできなかったが、私は先輩に身体を寄せることができて、幸せな気持ちでいっぱいだった。
北鎌倉から歩いて途中のお寺などに寄りながら鎌倉の鶴岡八幡宮へ向かった。明月院でアジサイを見た。丁度見ごろだった。鶴岡八幡宮でお参りをしてから境内でお弁当のおにぎりを食べた。
先輩に大きめのおにぎり3個、私は小さ目のおにぎり3個を分けて包んでおいた。おにぎりの具は鮭と昆布とおかかにした。水筒を取り出して、カップにお茶を注いであげた。
横に座っている先輩が私のことをみている。目線を感じて顔を向けると目線を外された。
「おにぎりどうでしたか?」
「とてもおいしかった。いつも心のこもったお弁当ありがとう」
「ただのおにぎりですが、そう言われると作った甲斐があります」
私は水筒と包装紙をリュックにしまった。二人はまた手を繋いで歩き始めた。そして参道の回りの店を見て回る。
「何か記念になるものでもプレゼントさせてくれないか?」
「必要ないです。その代わり記念に一緒の写真を撮ってください」
途中、先輩が私の写真を撮ってくれたが、二人一緒の写真は撮っていなかった。そばにいた人に頼んで、鶴岡八幡宮を背景に二人の写真を撮ってもらった。
私のスマホでも撮ってもらった。私はとっても嬉しかったのでその写真を先輩に見せた。先輩が私の肩をしっかり抱いてくれている写真だ。私が笑って写っている。大切な記念の写真だ。
「これからどこへ行きたい?」
「まだ、時間がありますから、由比ガ浜へ行ってみたいけど」
「ここから歩くと30~40分かかるから、鎌倉駅から江ノ電で由比ガ浜へ行こう。そこから歩いて海岸へ行けば良いみたいだ」
「そうしましょう」
由比ガ浜へ着いた。海の匂いがする。波はほとんどない。二人で手を繋いで海を眺めている。私は海に入ってみたくなって、スニーカーを脱いで波打際まで行った。先輩はそれを写真に撮ってくれた。
ここでも一緒に写真を撮りたいと言って、近くの人に頼んで江の島を背景にして撮ってもらった。私は素足で先輩はスニーカーを履いている写真だ。
先輩はそろそろ帰ろうと言って、足が濡れて砂がついている私を座らせて、ハンカチで足を拭いてスニーカーを履かせてくれた。そうしてくれたことがとても嬉しかった。
帰りは由比ガ浜から江ノ電に乗って藤沢へ抜けて、川崎から溝の口へ戻ってきた。川崎から溝の口までは座席に隣り合わせで座ることができた。
座るとすぐに私は先輩の肩に寄りかかって眠った。疲れた。先輩は寝過ごすといけないので起きていると言っていた。
溝の口に着いたので、私を起こしてくれた。
「これからどうする。食事をしようか?」
「ちょっと疲れたので、焼き肉を食べて元気をつけませんか? 安くておいしいところがあります。店はあまり綺麗ではありませんが、今日はこんな格好ですし、においも洗濯すればとれますから」
「そうしよう。案内してくれる」
駅前から歩いて5分くらいのところに古いビルがあり、その二階に焼肉屋がある。私はいつも食べている肉をそれぞれ二人前とごはんを注文してあげた。それとビールも頼んだ。喉が渇いたので二人で飲みたかった。でも飲み過ぎには注意しよう。
「ここは焼き肉が食べたくなった時にときどき一人で来ています。値段の割においしいです」
「良いお店を知っているね」
「女子が一人焼肉って、おかしいですか?」
「いやいや、女子も肉食系が多くなったと、ちまたでは言われている」
「それどういう意味ですか?」
「別に深い意味はないけどね」
ビールと肉が配膳された。カルビとロースが二人前ずつ。まず、ビールで乾杯する。冷たいビールがおいしい。私は肉を焼き始める。焼き上がると二人で食べ始める。おいしい。タレも良い味だ。ごはんと一緒に食べる。
焼き肉がおいしいので二人は夢中で食べる。私は先輩のコップが空くとビールを注いであげる。それから肉も焼いてあげる。もちろん焼き上がった肉は食べている。二人とも無言だ。
ようやく食べ終わった。やはり二人ともお腹が空いていた。ようやくお腹が落ち着いたところで、私はスマホの写真を見ている。
「楽しかったね」
「思い出の写真です。今日を精一杯生きた証になります」
「大げさじゃないか? また、行こうよ」
「大げさではありません。だって、明日、私が生きている保証なんてありませんから」
「生きているさ」
「本当にそう言えるんですか? 父は一晩で亡くなりました」
「そうだったのか?」
「先輩も明日はいなくなっていることもありえます。帰りに事故にあったりして」
「縁起でもない。僕は沙知さんのためにも今は死ねないし死なないから」
「誰も明日のことなんか分からないと思います」
「確かに、前にも言ったと思うけど、神様だけが知っていればよいことを僕は知ろうと思わない。ただ、今を精一杯生きていくだけだ。それに沙知さんのために事故にも合わないようにしてね」
「だから、私も一日一日を大切にして生きていきたいのです」
「ごめんね、不用意なことを言ってしまった。二人で毎日を大切にしていこう」
「そうおしゃっていただいて嬉しいです。この写真は二人が仲良く生きていた証になる思い出の写真です」
勘定は割り勘にしてもらった。先輩は意外に安いので驚いていた。二人は駅のホームで別れた。今日もまた楽しい良い一日だった。
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