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第12話 花火を見に来ないかと部屋に誘われた!―色っぽい浴衣姿で魅惑しよう!
『恋愛ごっこ』が終わってから、期待していたけど、先輩はずっと私をマンションに誘ってくれなかった。私も先輩をアパートに誘わなかった。部屋に誘えばどうなるか二人には分かっていた。
「今度の土曜日に多摩川で花火大会があるけど、部屋に来て一緒に見ないか? 部屋から花火が見えて綺麗だから、それにらくちんだぞ」
「本当に部屋から花火が見えるんですか?」
「入室してから花火大会があって初めてベランダから見えるのに気が付いた」
「一緒に花火を見てみたいので行きます」
「それなら、6時に来てくれる。飲み物と食べ物を用意しておくから」
せっかく先輩が部屋に誘ってくれた。行かない手はないし、この機会を絶対に断ってはいけない。私は先輩とならもうどうなっても良い、いや早くどうかなりたいと思っている。迷わずにそれを受け入れた。
◆ ◆ ◆
土曜日、私は朝から落ち着かない。今日は浴衣を着て行くときめている。花火大会見物ときたら浴衣にきまっている。でも可愛い浴衣はあるが、父に買ってもらってから何回も着ていない。うまく帯が締められるか心配だ。
それで朝から浴衣の帯を締める練習をする。まず、ネットで帯の締め方を検索する。一人で締める方法があるし、結び方も色々見つかった。浴衣で締める練習をすると浴衣に皺ができると困るので、まず部屋着で練習する。
前で結んで後ろへ回す。何回か締めると要領が分かってきてできるようになった。ほっとした。これで浴衣姿を先輩に見せてあげられる。
今日持っていくものを考える。ひょっとしてお泊りになるかもしれない。そういうふうになったらいいなと思うけど不安だ。あとで借りてきたDVDを見ておこう。
そうなると、朝帰りになるから、浴衣で帰るとまるでお泊りしてきたみたいだから、恥ずかしい。念のため着替えを用意していこう。
あれもきっと必要だと思うけど、私が用意していくのもおかしいし、もちろん手持ちもない。先輩は気の付く人だから、準備はしてくれているだろう。その時はそのときだ。なるようになる。そうなる覚悟は誘われた時からできている。
先輩は飲み物と食べ物は用意しておくと言っていた。でも何か持っていこう。おいしくて気に入っているナッツの買い置きがあった。先輩も気に入るはずだから持って行こう。
準備ができた。遅い昼ご飯を食べながら、DVDを見ておく。まえにも1回見てこれが2回目になる。何回見ても恥ずかしい。一人だから見ていられる。先輩と一緒だったら恥ずかしくて見ていられないと思う。気持ちの整理のためにしっかり見ておいた。緊張して見ていたせいか少し疲れた。
眠っていた。気が付いたら4時少し前だった。行く準備をする。シャワーを浴びてお化粧をする。それから浴衣を着る。帯を締める練習をしてあったが、実際の浴衣となると、うまくいかない。3回目でようやく気に入った締め方になった。ホッとした。
◆ ◆ ◆
電車に乗ったら、浴衣姿の女の子が大勢いた。それにもう花火会場へ向かう時間なので、とても混んでいた。二子新地では大勢の人が降りたので助かった。
6時少し前に先輩のマンションに着いた。私がここに来るのは、先輩がインフルエンザで寝込んだ時以来だ。6時丁度に部屋のドアホンを鳴らす。
先輩はドアを開けるとピンク地に赤い花模様の浴衣に真っ赤な帯を締めた私を見つけた。じっと私を見ている。気に入ってもらえたみたい。
赤い鼻緒の下駄を脱いで玄関を入る。そのまま窓際まで歩いて行って外を見てみる。
「花火の準備がしてあるのが見えますね。本当にここは特等席ですね。楽しみです」
「今のうちに飲んだり食べたりしないか? オードブルもあるし、暗くなる7時過ぎにならないと始まらないから時間がある」
「準備するのをお手伝いします。おいしいナッツがあったので持ってきました」
「お酒は何にする? ビール、赤ワイン、缶チュウハイ、ジンジャエール、ジュース、何でも用意してあるけど」
「赤ワインはどうですか? ここなら酔っ払っても心配いりませんから」
「いいね」
部屋は前に来た時よりすっきりしている。それに良いにおいがする。きっと大掃除をしてくれたみたいだ。窓も綺麗に拭いてある。室温も涼しくて快適だ。勧められてソファーに座る。
二人で赤ワインを飲みながら、オードブルを食べる。私の持ってきたナッツがおいしいのか食べてくれている。日没が近いけど、外はまだ30℃以上はあると思う。来るときにかなり暑くて汗をかいた。でも室内は冷房が効いていて汗も乾いた。
二人はソファーに座って、外が少しずつ暗くなっていくのを見ている。私のグラスのワインが少なくなると注いでくれる。
「この赤ワインおいしいですね。少し酔いが回ってきたみたい」
そう言って、先輩の肩により掛かってみた。
「僕も気持ちよくなってきた」
お互いに寄りかかる。お腹が膨れてアルコールが入ったので、少し眠くなってきた。
いつのまにか二人はもたれ合って眠ってしまったみたいだ。「ドーン」という大きな音で目が覚めた。もう外はすっかり暗くなっている。先輩も目を覚ましたところだった。
「花火が始まったみたい」
「ベランダへ出ようか?」
ガラス戸を開けてベランダに出ると、ムッとした暑さだった。でも時々川風が吹いてきて不快というほどではない。
どんどん花火が上がっている。始めは二人で立ってみていたが、部屋の端に腰を下ろして花火を見ることにした。背中は部屋の冷房で涼しい。
「とってもきれい。聞いていたとおり、ここは特等席ですね」
「部屋の明かりを落としたほうが見やすいかもしれない」
先輩が部屋の明かりを落とした。私は花火を見ながら先輩の手を握ってみる。そして肩に頭を寄せてみる。先輩は私の肩に手を廻して抱いてくれた。すぐに身体を預けてみる。良い感じだ。
私は花火より気持ちがそっちの方に向いている。でもこうして身体を寄せ合っているとなぜか幸せな満ち足りた気持ちになってくる。
私は花火を楽しんでいる。大好きな先輩とこんな良い場所で一緒に見られるなんて最高だ。私は先輩の腰に手を回している。先輩はまんざらでもなさそう。しめしめ。
花火が終わった。長いようであっという間だった。終わってからもしばらく二人は動こうとはしなかった。このままずっとこうしていたかった。
どちらからでもなく、自然にキスをした。先輩は私を抱き締めてくれた。待ってましたとばかり力一杯抱きついていく。
「今日は泊ってほしい」
耳元で囁かれた。すぐに頷く。先輩は立ち上がって私の手を引いて寝室へ向かう。そして二人はベッドに倒れ込んだ。私はどうしてよいか分からず先輩の腕をつかんでいた。先輩が浴衣に手をかけてくるので緊張してドキドキする。心配になって私は先輩の耳元で囁いた。
「優しくしてください」
「ああ、優しくする。心配しないで」
それを聞いて力一杯しがみついた。私はこうして先輩のものになった。
◆ ◆ ◆
この部屋は3階だから、明かりを消していても街灯のあかりが入ってきて、薄明るい。冷房は良く効いている。
私は布団の中から先輩に話しかける。顔が見えないけど、恥ずかしいので布団にもぐりこんで顔を出さない。
「少し眠ってもいいですか」
「だめ、もう一度可愛がってあげたいから」
「もうこれ以上は無理です。まだ痛みがあって、ごめんなさい」
「分かった。でも少し話をしないか? そのままでいいから」
「はい」
「大丈夫だった」
「ええ、でも思っていたよりも痛かったです」
「沙知さんを早く自分のものにしたくて力が入った。ごめんね、もっと優しくするんだった」
「いいえ、優しかったし、とても嬉しかった。それからもう沙知と呼び捨てにしてください」
「分かった。そうさせてもらうよ」
「私、こうなると思って、ビデオを見て、予習してきたんですが、やはり緊張してしまって、それに予想以上に痛かったので」
「痛がっていたのは分かっていたけど、途中でやめるわけにはいかなかった。ごめんね」
「うまくできましたか、よく分からなくて」
「ああ、うまくできたから」
「よかった」
「そのビデオは『処女喪失』ってやつかな?」
「そうです。何回か見てきました。でもやはり実際は違いますね」
「ビデオを貸してあげてよかったのか、悪かったのか?」
「見ておいてよかったです。心の準備というか、覚悟はできましたから」
「まあ、結果オーライということかな?」
「慣れてきたら、別のビデオのようなこともしてください」
「ああ、沙知の望みどおりになんでもしてあげる」
「ギュと抱き締めて寝てくれますか?」
「もちろん、いいけど」
「抱き締められたままで眠らせて下さい。あのあとにこうしてもらうのが夢だったんです」
「分かった。いい夢が見られるように、沙知、大好きだ」
先輩は布団の中に入って来て抱き締めてくれる。抱き締められた私も力一杯抱きついた。良い感じ。そのまま静かに動かずにいると、いつのまにか二人は眠ってしまった。
◆ ◆ ◆
夏の夜明けは早い。4時ごろには明るくなってくる。目を覚ますと先輩の腕の中にいた。私は丸まって背中を向けて寝ていて、それを先輩が後ろから抱きかかえてくれている。抱いて寝てもらった。幸せな気持ちでいっぱいになる。
夜中にまどろみながら何度も抱き合ったり離れたりしていたような気がする。この形が一番落ち着くみたいだ。そのうちにまた眠ってしまった。
先輩が動いたのでまた目が覚めた。もうすっかり明るくなっている。このままでは恥ずかしいので、先輩が目をさまさないうちにベッドから抜け出してバスルームへ着替えを持って入った。
先輩は私がバスルームを出たときのドアの音で目を覚ましたみたい。私を見つけてじっと見ている。私はTシャツとミニスカートに着替えていた。
「おはよう」
「おはようございます。昨日の残りで朝食と昼食を作りますから食べて下さい。朝食を食べてから帰ります」
「休みだからゆっくりしていけばいいのに」
「帰ってお洗濯やお掃除をしなければなりませんから。今度の土曜日には私の家へ泊まりに来てください。夕食を作りますから。中華はどうですか?」
「もちろん喜んで」
「紙袋を貸してください。浴衣を畳んで持って帰りますから」
「その浴衣、とっても似合っていたね。それにとっても色っぽい」
「父が大学へ入学したときに作ってくれました」
「着替えも準備して来てくれたんだね」
「花火の浴衣で朝帰りするわけにはいきませんから、女の身だしなみです」
「ありがとう」
朝食の後片付けをしてから、私は幸せで胸をいっぱいにして帰ってきた。
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