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思いで
灼熱の中、ぼんやりとしながら歩いていくと、右手にやっと公園が見えた。私は、吸い込まれるように公園に入る。この公園は、さっきの人気が少ない道路とまたその奥にある、住宅街の道路に挟まれていた。
つまり、この公園を境にして人口密度が変わるのであった。そんな公園には、ジャングルジムとブランコ、トイレ、そして水道しかない。家が一軒建つかもわからないほど小さな公園だった。しかし、夕方になると小学生がドッジボールをやりに来たり、親が子供を遊ばせていたりする。
今日の公園には、一人も人がいなかった。外はあまりにも暑い。外に出たくなくなるのも仕方がない。私は、人目がないのをいいことに水道に直行した。そして、固く閉まっていた蛇口を反時計回りに思い切り捻った。勢いよく水が噴き出る。私は、水を貪るように口に入れた。夢中で飲み続け、三口目を口にしたところで肩を下ろす。
さすがに飲みすぎたようだ。蛇口を元あったようにきつく締め、私は小さなベンチに腰掛けた。
お化けも喉が渇くようだ。死んでからもそんなに楽じゃないなと苦笑する。
少し疲れてしまい、私は目を閉じた。セミの声が周りの空気を包み込む。そこに、夏特有の湿気を多く含んだ風が流れこんでくる。しかし、そう悪くは感じなかった。この風が去年吹いた夏の風と似ているからだろうか。
湊は、大学を卒業して、働くようになってから、格段に忙しくなった。大学生から社会人。その差は大きいだろう。朝早くから夜遅くまで働き、面と向かい合って話すのも少なくなっていた。そのような年が去年で三年目になった。
そんな夏のある日のことだ。その日は、私の誕生日だった。私が大学から帰って鍵を開けようとすると、すでに鍵は開いていた。いつもは湊が帰っていない時間である。不思議に思ってドアを押すと、箱が置いてあった。私は、その箱の蓋を開けた。すると、中にはかわいいパンプスが入っていたのである。
ドアが開く音を聞いたのか、湊が出てきた。
「おー、瑠香、早いね。あ、それは、瑠香への誕生日プレゼント。瑠香のパンプスを履く姿も見てみたいと思って買ってきちゃった」
私は、湊にお礼を言ってから、パンプスに足を入れる。ほのかに香ったバラのような匂いが心地よかった。
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