食欲

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主人の手を取り、掌へ口を付けようとしたら優しく離れてしまった。 「これは、君のためでもあるんだよ? だからまだ我慢しなさい。我慢できたらお腹いっぱい食べさせてあげるから、ね?」 「……主人、もう無理」 主人の手が頭を撫でた。 「大丈夫。君、人じゃないんだから簡単にくたばらないだろ? だからもう少しだけ付き合って」 主人の指が自分の口の中へ入ってきた。 わざとらしく舌を弄ばれる。 美味しい……。人間の味がする。 噛もうと歯を立てたら、「駄目」と叱られた。 「人を噛まないんだよ」 「辛い……」 「わかってるよ。だから我慢を覚えるんだよ。いいね?ーーベルゼブブ?」 「……はい、主人」 目の前にある人の死体を喰らうのは、まだまだ先みたいだ。 自分は、この主人(人間)から逃れることはできないだろう。 自分の空腹を満たしてくれるのは……もう、このお方しかいないのだ。
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