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食欲
大量の涎があふれ出る。
目の前にある美味しそうな食事に目が爛々と輝く。
腹が減ったーー
そう本能が叫ぶ。
だけど、目の前にある食事へ手を伸ばしたいけど伸ばせない。
勝手に食べてしまったら、主人に叱られてしまう。
ああ、食べたい。食べたいのに食べられない。
辛い、辛い、辛い、辛い……。
口からは涎が大量に出てくる。
鼻を香ばしい甘美な匂いが悪戯のように燻る。
早く食べたい、食べたい、食べたい!!
空腹で頭がクラクラしてきた。
目の前の食事がボヤけてしまう。
息も荒くなりつつある。
「しゅ……主人。もう……いいでしょう? 早く……。はやくたべたい、です」
向かえの席にずっと自分の醜態を見つめていた主人へ懇願した。
主人は片肘をついて頬杖をしている。口元には小さな笑みを浮かべていた。
「そんなにお腹が減ったのか?」
主人の若い見た目から反したシワがれた声が耳を犯してくる。
その声を聞いただけで、さらなる食欲が高まる。
「おなかすいた……。だから、食べたい……。コレ食べたいぃ!」
空腹が限界値をとうに超えていた。
涎と一緒に涙まであふれだす。
情けなくて、辛くて、恥ずかしくて、切ない。
早く空腹を満たしたい。
主人が席から立ち上がった。
こちらへ来た。
「お腹いっぱい食べたいのかい?」
コクコクと振り子のように頭を上下に振る。
「でも、まだ駄目」
主人の楽しげに言う言葉に涙がダバダバ出る。
「たべたいです! おなかすいた! 食べないと死んじゃう!」
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