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女は泣き喚いた。髪を振り乱して言葉にならない叫びを上げた。不意に額に雫が落ちた。触るとぬるりと指に絡みついた。娘の血だった。
頭上を見上げる。振り上げられたナタが鈍く光った。娘を殺したであろうナタだ。ああ、私もこのまま殺されるんだ。娘と同じ様にバラバラの肉片にされるんだ……。女は半ば諦めて目を閉じた。
長い長い数秒が流れた。ナタの凶刃はなかなか降ってこない。女は恐る恐る振り返る。怒りと憎しみに満ちた禍々しい顔がこちらを見ていた。しかし、涙を流し悲しんでいる様にも見えた。感情の解らない表情をぼんやり眺めていると、ナタがいきなり振り下ろされた。
ごんっ――。
鈍い音と共に女の意識は途切れた。脳天へ振り下ろされたのは刃ではなく柄の先端だった。
どれだけの時間、狭い檻に閉じ込められているのか。一筋の光さえ無い暗闇の中では見当もつかない。
垂れ流した糞尿の悪臭の中だというのに空腹は増すばかりだ。喉も渇いた。ひもじさでおかしくなりそうだった。
ゴウンッ――。
重苦しい音を立てて部屋の鉄扉が開いた。外は夜中らしく、頼りない月明かりが差し込んだ。男が入ってきた。女はその男をもう、夫だとは思えなかった。愛娘を殺し、自分を檻に監禁した憎々しい悪魔だ。
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