0人が本棚に入れています
本棚に追加
拓郎は外で星空を見上げた。愛した妻は醜く変貌し、愛娘を喰らった。突然、孤独の身にしまった。星空に浮かぶ妻のかつての笑顔の幻影に涙が溢れた。
あの忌まわしき朝、夜勤から帰宅した拓郎はバラバラになった娘と、傍らで眠る血に塗れた妻の姿を見た。足元にはナタが転がり、妻の口元は娘の血で真っ赤に染まっていた。
生屍ウイルスの感染者は初期症状として無意識下に人肉を欲するという。あの時もそうだったのだろう。妻は娘の小さな手を握って幸せそうな寝息を立てていた。
室内から発砲音が聞こえた。まもなく感染者処理班の手によって火炎放射器での焼却作業が行われるだろう。
妻は檻の中でしきりにお腹が空いた、と言っていた。最後に片腕くらい食わせてやれば良かったな。今更ながらに後悔した。そしてすぐに首を振る。生屍ウイルスの感染者に噛まれれば自分も感染してしまう。
「ごめんな。……?」
不意に、足首が痒い事に気が付いた。裾を捲り上げると紫色に変色した痣が出来ていた。痣は歯型のように見えた。
まあいい。そんな事より――。
「お腹、空いたなぁ……」
最初のコメントを投稿しよう!