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第2話【私だって進みたい。】
モヤモヤしたままの帰り道、遠回りをしてユメカは近くの店舗へと足を運んだ。
金色でユスティールのロゴがあしらわれたドアを開けると、
「いらっしゃいませ..わぁ♡ユメカさん」ぱぁっと笑顔になったストアマネージャーの奥野さん。
その少し奥には、目を輝かせながらショーケースに入った指輪を眺めるカップルらしきお客様。
私はこういうふうに、誰かの笑顔や幸せをつくることができるあなたたちの方が羨ましいのに。
"ここのカヌレ美味しいんだよね〜♡"
店の隣にできた新しいスイーツ屋さんに並んでいる女子高生の言葉が耳に入った。パパには言えないけれど、ユメカは学生時代には経験できなかった楽しみを時々味わいたくなる。
フランボワーズ味のカヌレを1つだけ買い、近くの公園に寄った。
今日は天気がいいので、広場には老夫婦や子連れなど色んな人がいる。
茶色の紙袋から取り出したカヌレを一口かじる。
「んーまぁまぁね。」
感動することが減ってしまった、いつのまにか肥えてしまっている自分の舌がイヤになる。
"ユメカ、今夜のパーティー宜しく頼むよ。これは会社だけじゃなくユメカの為でもあるんだ。"
「ねぇ、お母さんはどう思う?」
お母さんの形見であるブローチを、ハンドバッグから取り出し、澄んだ空にかざしてみる。
透き通る真っ赤な玉がツルンと光った。
"もし将来あなたにしたいことが見つかったら、たとえ周りに反対されてもお母さんみたいにやり遂げてほしい。だからユメカって名前をつけたのよ"
そういって病室でブローチをくれたお母さんの顔が浮かんだ。
ふと、景色に目をやると、建設途中の図書館があった。先月見た時よりもかなり完成に近づいている、、進んでるんだ。
少しずつでも自分が信じる方角へ進めばいいんだ。
お母さんみたいにすごくないけれど、私にだって、私にしかできないことがきっとあるはず..!
ユメカは、ブローチをベンチの横に置き、カバンから出したアイデアノートにスケッチを始めた。
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『んじゃお疲れさまっす』
仕事を終えて外に出ると、ベンチに座りスケッチをしている女の人。
誰だっけ、、?見覚えのある顔に思い出せないでいると、何かが夕日に反射し目をくらませる。
『まぶしっ』
あ、思い出した。
ユスティールのお嬢さんだ、以前テレビニュースで見た。確か新商品の発表イベントとかだっけ?カイは、その商品の値段を知って、自分とは住む世界が違う人だと痛感したのを覚えている。
汚れの付いた作業服の裾を手で払い、背を向けて歩き出そうとした時、彼女の背後から帽子を目深に被った男が近づき、彼女のブローチを奪っていくのが目に入った。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
さっきまでの余裕を纏った美しさとは打って変わり、真っ青に表情を変える彼女。気づけばカイは走り出していた。
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