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第3話【私の大事なもの】
あれからどうなったんだろう、、
「お母さんごめんなさい..」
宇野辺さんは確かに聡明ではあったけれど、地位や学歴で他者をはかるような人で、、
パーティー中ユメカは、ブローチのことが気にかかって宇野辺どころではなかった。
『おいお前、何してんだよ!待てって』
ピンヒールのせいで走れなくなった私の背中を追い越して、作業服の男性が泥棒を追いかけてくれた。けど..その後がわからない。
第一、あの作業服の人がそのまま自分のものにしちゃった可能性もあるよね。なんせ高級品だから..なんて考えちゃダメダメ。
でも大人になって知ったの。
世の中には優しい人ばかりじゃないってこと。
衣装替えのため、ユメカは一旦部屋へ戻った。
「疲れましたね。少し休んでから行きましょう!」お手伝いさんとして働いてくれているエミコさんが着替えさせてくれる。明るくて優しくて、小さい頃から一緒にいる友達のようなお母さんのような感覚を彼女に抱いている。
「うん、、エミコさん申し訳ないのだけれど少し1人にしてくれるかしら?」
「もちろんですお嬢様」
エミコが部屋を出て少ししてから、ノックの音が聞こえた。
何か忘れ物かと思ったユメカがドアを開けようと近づくと、
『こっちだよこっち』
と音は窓の方から聞こえた。
バルコニーに人がいる。
きゃぁ!思わず叫んだユメカの口元が覆われた。
『しーっ。浮かない顔だね。あんな豪華なパーティーなのに。』
中庭で行われている、今日のゲストである宇野辺さんとその関係者をもてなすパフォーマンスを見たのだろう。
「あなただれ、、」と振り向いて気づいた。さっきの作業服の人!
『これ。』スッと拳を前に出し、開いてみせる。その手の中には、ユメカが探していたものがあった。
「ブローチ、、!」
『なんか知んないけど、大事なモンなんでしょ?』ひどいよな、人の物取るなんて。
と顔をしかめて見せた口の端は少し切れている。
もしかして、私のせいで怪我させちゃった?
「取り返してくれたのは心からありがとう..だけど!人の屋敷に忍び込むなんて..不法侵入だわ。」
エミコさん!と助けを呼ぶユメカにカイは
『じゃまた』
とだけ告げた。
「もう会うことはないわ。!」
エミコが到着した頃には彼はいなかった。
その日ベッドの中で目を閉じると、なぜか彼のことがふと頭をよぎったりして、ユメカはアイデアノートのスケッチを再び開いた。
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