博士は秘宝

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どんな地下ダンジョンも無傷で帰還する伝説の男がいる しかし攻略するわけではない 最奥の秘宝には目もくれず、壁や地層を調べるだけ 彼の名は白亜 世界一の恐竜博士である 今日も1人で地下ダンジョンに淡々と潜る 一緒に連れていってくれ~!なんて不埒な輩は山ほど来るが全てお断り門前払い 単純に邪魔で面倒だし、1人でないと危険だからだ なぜならダンジョンには防衛機構が存在する 一歩足を踏み入れたその瞬間、邪な欲望は全て見抜かれる 攻略しようだの宝を手にして金儲けだの、そんな考えを持つ者を敵と判断 防衛機構が作動し魔物や罠が蔓延る魔境へ変貌するのだ だからこそ単純に用がある者、たとえばダンジョンの製作者なんかは敵と判断されず防衛機構が働かない 自分の家が魔物と罠だらけじゃ住みづらいだろう トイレへ行くのに致死毒の矢を避けて針天井を駆け抜けて……なんて手間を踏むのは非常に面倒だ そのためお宝に微塵も興味が無く、別な目的で侵入する者は安心安全 とはいえダンジョンに入る以上誰でも少しは欲望がちらいてしまう なので純粋に化石調査がしたい自分1人で向かうのが、唯一無傷で帰還する方法なのだ それともちろん攻略されては研究が進まない 地下ダンジョン内部は特殊な魔法で保護されており、天井が崩れる恐れも無く化石の保存状態もすこぶる良好 なんなら軽トラで乗り込むことすら可能である これも全てダンジョンが未攻略のままだから 秘宝を守るために魔力で維持されいつまでも変わらない姿であり続ける もしも攻略されてしまえば、存在意義を無くし消滅してしまうだろう だからこそ全国の冒険者が本当に憎い  様々なダンジョンを攻略したと自慢げに誇っている愚者共が そのせいでどれほどの知的財産が失われたと思っている? もしもお前が攻略したダンジョンで新発見があったとしたら? そこで化石が見つかるだけでその種類の生息域が判明するのだぞ せめて地下ダンジョンだけは残しておいてくれ!! そんな怒りを抱きながら、丹念に壁や天井を見て回る このダンジョンに潜るのは始めてだ 炭鉱のように掘られた通路にはゴロゴロと岩が転がっている 骨が露出していないか 特徴的な岩は無いか 貝やサメの歯など小さな化石も重要な資料 見逃さないように目を皿にして眺めていれば ――カラン 乾いた金属音が遠くで響いた おかしい そんな訳あるか ここはダンジョン内で誰もいるはずがない 入り込んだ野生動物?にしては金属音がしたのは不思議 まさか自分と同じように無欲の者が入ってきた? いやそれよりもダンジョンの防御機構が起動して、魔物や罠が配置された音ならば非常にマズい 下手に動くのも危険だろうか とりあえず現状把握しなければ グルグルと必死に考えていれば 「お前何者じゃ 我の家で何をしている」 背後から声をかけられた ゆっくりと振り向けば高身長の女性が立っている だらしないジャージにつっかけたサンダル どこからどう見てもくつろぎのルームウェア 危険なダンジョンの奥にいるにはとても似つかわしくない恰好だ 「初めまして 俺は白亜、恐竜博士だ 化石の採掘でここに来た」 「一体どうやって入った? ここはダンジョンではなく我の家 普通の人間は誰も入れないぞ」 「普通に正面から堂々と 別に攻略が目的じゃないから入れたのかもな」 「……あぁなるほど 防御機構の穴を突いたのか ここも同じ機構を使っているからな」 「というと?」 「普通のダンジョンは攻略目的の者が入ると魔物や罠が配置されるだろう? ここはシャットダウンが働くのだ」 「う~んと、つまりは攻略目的の冒険者がこのダンジョンに入ろうとすれば、シャットダウンされて入れないと」 「その通り 流石博士と名乗るだけはある」 「しかし何の為にそんなことを? というかなんでダンジョンの機構をいじれるんだ?」 「だ~か~ら ここは我の家なのだ この不死身女帝 血塗られた狂犬チャーク・ド・ヴァッハ様のな!!」 「チャーク……なんだって??」 「スマン 適当に名乗った 本当は美子というありきたりな名前だ だが気に入ってるからチャークと呼べ」 なんだかわけがわからない ここはダンジョンではなく家で、目の前の女性が機構をいじれて、本当はシャットダウンされて入れないだぁ?? なんの証拠も無いがとにかく今は信じるしかない この不死身女帝―― 「なぁアンタ、いま不死身って言ったか?」 「あぁ言ったぞ その言葉通り我は不死身だ いまは無きダンジョ生成の技術を使えるのも」 「いつから生きてる!?その目で恐竜は見たか!?氷河期の寒さを体験したか!?」 「おいおいおいおい興奮するな!! 見たし体験したし全て知っておるわ」 「聞かせてくれ 一語一句キッチリ見たままに語ってくれ まさか生の証人に出会えるとは!! えーっとじゃあどこから聞こうかな 先カンブリア時代とか生きてたか? いやそもそも人間が生まれる前に誕生していたなら君は何者なんだ あぁでもどうでもいいな君は君だ!!」 「随分情熱的な告白じゃな いいじゃろう、我もちょうど退屈していた お望み通り三葉虫の蠢くさまから丁寧に語ってやるとしよう」 こんな気持ち悪い生物が泳いでいて、アノマロカリスはやっぱり大きくて、いきなり陸上にあがろうとし始めた生物を見た時は心底驚いて そんな話を事細かく詳細に語ってくれた 聞き逃さないようにメモをとりまくり、時には質問も交えながら延々と会話する 化石から想像するには限度があり、妄想で保管する部分もかなり多い だからこそこうして実際に見た人間から証言が得られるなんて正に夢のようだ 永遠に話したい気持ちを抱えながらも肉体の限界が訪れた 「今日はもう帰れ白亜 おそらく10時間は喋りっぱなじゃったぞ その間全くの飲まず食わず このまま続ければお前の方が死んでしまう」 「だがこんな貴重な話を止めるわけには」 「阿呆 また来ればよい その時に続きをゆっくり話してやろうぞ」 「また来ていいのか!?」 「そんなはしゃいだ犬のような顔をするな むしろお前こそこの約束を破るなよ? 明日も忘れず必ず来い」 呆れた様子のチャークに首根っこを掴まれてダンジョンの入口まで送られる むしろそうしてもらわなければ足腰に力が入りづらい 「なにか食い物があれば良かったが、我は食事が不要故な」 「それなら排泄もしないのか?」 「女子にそういう事を聞くな馬鹿者 とにかく無事に帰るんじゃぞ?」 「わかった じゃあ指切りげんまんだ 俺は無事に帰るし明日も来る その代わりチャークは明日続きを話してくれる」 「指切りなど恥ずかしいわ」 「ほら手出して 指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます! 指切った!!」 照れくさいのか赤ら顔のチャークに別れを告げて、浮かれた足取りで帰宅した まるで信じられない体験だが、膨大なメモがその証拠 書いてある内容全てが驚くべき大発見で研究者なら喉から手が出る程欲しい物ばかり 明日も明後日も通いつめ、正しい歴史を全世界に広めなければ!! 「……ホントに来たわ馬鹿者が」 「当たり前だ! さぁ昨日は先カンブリア時代から古生代の半ばくらいまで聞いたかな 今日はその続きとジュラ紀の恐竜や昆虫についてたっぷりと話してもらうぞ」 「ちゃんと食料は持ってきたか?」 「もちろんだ! チャークも食うか?食事は不要だが食べる事自体はできるんだろう?」 「確かにそうじゃが」 「美味しくないけど腹持ちがいいのと、美味しくないけど馬鹿みたいに甘いのどっちがいい?」 「マトモな物はないのか!?」 こうしてみっちり話を聞いて、1日じゃ足らず何日も通って 恐竜が絶滅した瞬間や人類が進化する過程を語ってもらい 気がつけばもう1ヶ月が経過した これらを論文にまとめ発表すれば人類にとって大きな一歩となるだろう もう楽しみで仕方ない 証拠を探す発掘調査の許可も貰い、チャークの居住スペースなど掘られたくない場所以外ならどこを掘ってもいいそうだ これなら新しい化石も見つかるだろう 喜び勇んで自宅に帰れば 「やぁ 待っていたよ博士 ちょっと協力してもらえるかな」 ガラの悪い男達が待ち受けていた 「君達は誰だ こんなしがないただの博士に何の用だい?」 「俺は安堂 見ての通り悪党だ」 「簡潔で素晴らしい自己紹介だな」 「アンタの正体は知っている ダンジョンに入っては無傷で出てくる奇跡の白亜 ぜひともその秘密を知りたいものだ」 「残念ながら教えても君達には無駄だろう 実践できるとは思えない」 「やってみなくちゃわからないぞ? しなびた博士が出来るなら、俺達みたいな屈強な冒険者でも出来るだろうさ」 「具体的には何が欲しい」 「ダンジョンの地図だ アンタが噂通りダンジョンを自由に行き来できるのはこの1ヶ月じっくりと見て確認できた その仕組みも気になるが、いまはとにかく地図が欲しい」 「俺が入るダンジョンと、君達が入るダンジョンでは全くの別物だ 魔物の種類や罠の位置までは書けないぞ?」 「そこは俺達の技量でどうにかするさ それでも闇雲に進むのではなく、最初から正解の道を知っていればだいぶ楽になる」 「道が組み変わる罠などは考えないのかい?」 「その時はその時さ 何よりもダンジョンの地図なんてとんでもないお宝だ 売ればかなりの大金となるし、もちろん俺達の攻略にも大助かりだ」 「なるほどなぁ それでどこの地図が欲しい」 「全部だ アンタが行った全てのダンジョン その地図を書いてもらおうじゃないか」 「おいおい強欲だなぁ!そこまで詳しく覚えてないぜ!」 「誰が今日全部の地図を書けと言った アンタはこれから俺達の奴隷だ 行った事のあるダンジョンを巡り、もう一度入って最新の地図を書く それが終わったら他のダンジョンも巡り地図を書いていく」 「馬鹿だなぁ 計画性も無いし見通しも甘い 俺がそんな事をするとでも? それに自分で言うのもなんだがね、こう見えて意外と有名人だ 姿を消せば誰かが騒ぐだろう」 「何もペットのように捕らえて飼うわけじゃあない 今日みたいにフラリと現れ地図を貰って帰るだけさ」 「俺は逃げるしどこかへ消えるかも」 「1ヶ月見張られて一度も怪しまず、こうして自宅にも入られた間抜けが何を言う」 「そもそも書くなんて言っていないぞ」 「いいや書くさ おいお前ら、ちょいと教えてやれ」 目配せすれば周りに控えていた屈強な男達が白亜を押さえつける ジタバタと暴れるがビクともせずまるで無駄 どうやら口先だけじゃない、本当に鍛えた冒険者のようだ 「さて博士 利き手はどちらだい?」 「そこのタフガイに押さえられている右手だよ これじゃあ何も書けないがね」 「では左手はいらないな」 懐からスルリとハンマーが躍り出る まさかと思ったその瞬間 「――ッッ!!」 肩に思い切り振り下ろされた 激痛が熱く全身に広がり汗が噴き出る 「ふむ この感覚では折れてないな 腕を伸ばせ」 ダラリとした腕を無理矢理掴まれ伸ばされて 肘を思い切りブン殴られる そのまま手首や二の腕に尺骨など乱雑に殴打 血こそ出ないがボロボロに折れてもう使い物になりゃしない 「さて博士 喋れるかね? 書く気になったかい?」 「……誰が書くかよ」 「素晴らしい意地だな それでは強行手段と行かせてもらおうか」 安堂はハンマーを投げ捨て懐から注射器を取り出した 緑色の液体が艶やかに輝く 明らかに怪しい毒である 「賢い先生でも初めて見るだろう? コレは毒だ しかもダンジョンの魔物由来の毒 とりあえず即死はしないだろうが、どうなるかは俺にもわからない」 「従わない者は殺すのみか」 「先生は死にたいのかい?やり残した事はないのか、こんな所で終わっていいのか?」 「悪党の言葉とは思えないな そう思うなら打つのを止めてくれよ」 「もちろん解毒薬がある そうだな、とりあえずいまから1枚地図を書けばそれを与えよう さぁどうするよ博士」 睨む白亜にチクリと鋭い痛みが走る もはや猶予は残されていない ここで死ぬわけにはいかないのだ せめて論文を発表しなければ 「アンタはさっき自分が有名人だとほざいていたが、勝手に1人でダンジョンに入っているのは紛れもない事実だ そこで事故が起きても誰もわからない アンタは周りから見ればいつ消えてもおかしくない人間なんだよ」 悪魔の囁きが脳を蝕む 廻る視界に苦しみながら運命の選択を迫られた 「おぅ白亜! 毎日毎日飽きもせず通うなんて偉いの……どうしたその傷は?」 「アハハ ちょっとトラブルに巻き込まれてね」 「馬鹿者!!ほとんど死にかけではないか!! 左手は複雑骨折、もしや右目も見えていないのか?」 「流石チャークは目ざといね 毒のせいで失明しちゃったみたい」 「何があったのか詳しく話せ いますぐに全てを」 「僕の知識を狙った悪党に襲われた ダンジョンの地図を書けと言われて脅されて、とりあえず1枚書いて許されたよ」 「ダンジョンの地図じゃと!?」 「ゴメンなチャーク ここの地図を書いて渡しちゃった もちろん出まかせの嘘地図だし、どうせシャットダウンされて入れないからいいだろう?」 「そしたらお前も出れないだろう!!ここから出た瞬間にそいつらに襲われて殺されるではないか!!」 「出なくていいんだ 正直ね、もうダメな気がするから」 「そんな そんなわけ」 息も絶え絶えの白亜は静かに目を閉じる 「白亜! 目を開けんか白亜!!!!」 チャークの叫びに応答は無い 冷徹で静謐な地下ダンジョンに寂しくこだまするのみである 「安堂さん あの博士どうにも出てきませんね もしかして中でくだばったんじゃ?」 「なに、死んじゃいねぇさ アイツは10時間以上籠もっているのが当たり前だからな もしかすればその傷を癒す秘宝があるのかもしれねぇぞ」 ダンジョン入口に安堂の部下が続々と集まる 彼等は悪党だがその腕は確か いくつものダンジョンを攻略し、数々の死線を潜り抜けてきたプロの冒険者 裏切ったら殺される恐怖で繋がる仲間ではなく、互いを信頼しあう家族である 「さてお前ら!! 今回のダンジョンには地図がある これを元に攻略するぞ!!」 「もしもあの博士が偽の地図を書いてたらどうするんで?」 「その時はいつもと同じやり方に戻るだけさ 実はこの地図の真偽はそこまで関係ない」 「結局は本物を売ったとしても、購入者が実力不足で失敗すれば終わりですからね」 「その通りだ むしろ逆に偽物だとしても、実力不足で死んだと叫べば道理が通る だが本当に成功した!安堂が売る地図は本物だ!そんな噂が広まれば広まるほど高値で大量に売れていくだろう だからまずは俺達で、このダンジョンを攻略するぞ!!」 奮い立たせる雄叫びをあげながら、謎が渦巻くダンジョンへ侵入した 俺達なら絶対に勝てる 胸には自信が滾っていた 「貴様が白亜を殺した者か?」 「――チッ あの博士死んじまったか 金の卵だったのに残念だなぁ!!」 ダンジョンに入れば広い洞窟に繋がっていた その中央に1人の騎士が待ち構えている 深紅の鎧を身に纏い、兜で顔も隠れて素性がわからない かろうじて声から女性だとわかるがその声には明確な怒気が含まれていた 「アンタは何者だ? このダンジョンの門番か?」 「何故白亜を殺した」 「殺す気は無かったよ アイツが強情で生意気だから死んじまっただけさ」 「そうか ならば貴様も死ね」 「おいおい俺も答えたんだからアンタも答えてくれよ アンタの正体は何者だ?」 「貴様を殺す者だ」 赤い鎧が眩く輝き思わず目を伏せる 白い光で何も見えないが刀を構え不意打ちに備えた 次第に戻りゆく視界の中で見えたのは 「……嘘だろ?」 ザっと40人程に増えた騎士の群れだった その数を活かし怒涛の勢いで襲い来る騎士を必死で捌く 1人を斬ればその背後から2人が斬りかかってくる 休む暇も無く刀を振るい、死に物狂いで片っ端から殺しまくる 硬い鎧など意に介さずに一刀両断 もっと硬い魔物をいくらでも斬ってきた 首を刎ね、腹を刺し、とにかく刀を振り回す コチラは1人 相手は無数 それでも負ける気はしない いったい何人を斬り何分暴れ回っただろうか 唐突に騎士が消滅した ガランとした広い洞窟に1人きり 先程までの闘いがまるで嘘のようだ 肩で息をしながら周囲を見渡せば 仲間の死体が転がっていた 叫びたくなるのを必死でこらえる あぁそうだ どうして俺は大事な仲間を忘れていた? なぜ1人で闘っていると思っていた 1人でダンジョンに入るわけがないじゃないか ダンジョンに侵入した瞬間だ あの騎士と喋っている時には既に忘れていた 催眠術や幻覚にかけられ騙されたのか じゃあもしかして俺が斬り殺した騎士の群れは 混乱した頭でいくら考えても最悪な答えしか出てこない 「そんなところで立ち止まってどうした まだまだ先は長いぞ もっと凶悪で醜悪な罠がたんまり用意してあるのだ 早く奥へ進め」 悪魔の囁きが耳元で響く ……これ以上の罠が待ち受けているのか どこかで心が折れた音がした 血塗られた刀を腹に押し当てる 冷たい感触にどこか安心感を覚えながらゆっくりと突き刺す 「馬鹿者 自分で死ねるわけがないだろう 首だろうが腹だろうが好きな所を刺してもいいが、貴様は永遠と苦しむのだ」 その言葉通り腹部からドクドクと血が流れつづけ、ジクジクとした痛みが体に広がるが死は訪れない 「うわあああああああああああ!!!!」 叫びながら自分を滅多刺しにする 顔も 首も 胸も 手も 脚も どこを刺そうと斬ろうとも、痛みだけは感じるが待ち望む死は訪れない 「気は済んだか? さっさと立ち上がり奥へ進め もしかすればそこで待ち受ける罠でなら、貴様は死ねるやもしれぬな」 「――ここは 俺はいったい」 白亜はゆっくりと体を起こす 周囲を見渡せば見慣れた地下ダンジョン そうだ、俺はチャークに会いに来てそこから 「あれ?手が動く 目も見えてる?」 使い物にならないはずの左手も 毒で失明したはずの右目も 体を支配していた泥のような疲労感も綺麗さっぱり無くなっている おずおずと歩いてみればむしろいつもよりも数段元気だ 「間違いなくチャークのおかげか 何したんだアイツ??」 とりあえずお礼を言いに行こう 見当たらないチャークを探しにダンジョンを彷徨えば 「……ん? なんか匂うな」 ただならぬ異変に気づいてしまった 異臭だ 腐敗臭のような悪臭じゃない、これはまるで 「誰かが死んだ血の匂いじゃないか」 考えるよりも先に体が動く まさかチャークが殺された?そんな馬鹿な 安堂が侵入できるわけがない だがあの悪党ならもしかすれば 「チャーク!!チャーク!!」 取り乱して叫びながら入口に辿り着けば 辺り一面に血が飛び散り、むせかえるような死臭が辺りをつつむ まさか本当に殺されたのか とりあえず自宅に帰れば安堂がいるかも そうでなくてもダンジョンの外で俺を見張っている部下がいるはずだ 手がかりを求めて飛び出そうとすれば 「……出れない?」 扉は動かずどうしても出れない まるでシャットダウンされているかのようだ 「別に出なくていいじゃろう白亜 お前は我の秘宝じゃ もう絶対に逃さぬぞ」 優しい天使の囁きと共に背後から優しく抱きしめられる 「我も怖かったのじゃ このまま話終えればお前はもう来てくれないのかと怯えていた だから我と一緒にここで暮らそう もちろん永遠にな ほら手を出して 指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます 指切った」
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