8人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
長原和彦はパソコンを見つめて息を荒くしていた。
「亜季瑠ちゃん、かわいい。他の3人はモブだから邪魔。もっと亜季瑠ちゃんを映せ」
長原和彦のパソコンのデータフォルダには亜季瑠の動画や画像が山のようにある。クラウド・ガールズの四人は素人だから映り込みやSNSの身バレ対策が甘い。長原和彦は亜季瑠の本名も、住んでいる実家も簡単に割り出せた。
「亜季ちゃんか、本名もかわいいな。グヘヘヘへ。グフグフグフ。」
絵に描いたようなヤバいオタクがそこにいた。50代前半、洋服は70代後半の母親が買い与えた物でシルエットもカラーもどことなくもっさりしている。アイドルの追っかけは札束の殴り合いでつまらないから止めた。握手、ツーショットチェキ、ハグ、金で全てが決まる。
「僕だけのアイドル…。もうお笑いなんて可哀想なことをさせないよ」
今日の「クラウド・ガールズ」の配信は、ファンの要望に応えて「SPICE・GIRLS」の物真似ダンスを披露している。途中で民族舞踊のケチャとニュージーランドのハカを入れてウケ狙い。
「ハハハ…。面白いけど亜季瑠ちゃんはSPICE・GIRLSみたいなセクシーな衣装が本当に似合うから、笑いは要らない。もうすぐ迎えに行くからね」
長原和彦は、亜季瑠を拉致して叔父が介護施設に入って使われなくなった別荘に監禁しようとしている。叔母は他界して、要介護5の叔父は施設で暮らすしかない。叔父の家とは違い、質素な家に生まれて損をした。叔父夫婦に子供はいない。叔父の家に生まれていたら、高学歴高収入でモテたかもしれない。ネクラで陰険な和彦は女性と縁が無かった。それを学歴や収入のせいにして、性格のせいだと気づけない所がこの男の歪みの始まりだ。50代で人生も後半戦に入っているというのに、道を大きく踏み外そうとしている。
最初のコメントを投稿しよう!