女の友情はライスペーパーより薄い

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 「絶対に秘密だよ?」 凛は言った。 「ヤバくない?タイトル被せるのは」 陽葵は心配そうに凛を止める。咲良は眼鏡の鼻当てに手をやって、タブレットの検索結果を見せる。 「タイトルに著作権はありません。よって動画タイトルが既存書籍と同一でも合法です」 亜季瑠がライスペーパーをテグスで吊り下げて、 「合法なら別にいいじゃん、早くコントやろう。ネタ出しする方の身にもなれって」 待ちかねたように言う。  「クラウド・ガールズ」という女子大生四人組のコント師は、動画配信サイトで大人気だった。凛が見つけてきた既存書籍はかなりマイナー。バレてもタイトルに著作権がない。だから概要欄には参考資料の記載もしていない。 『女の友情はライスペーパーより薄い』 サムネイルには四人のシルエットが映る。 ファミレスを模した座席で四人のトークが始まる。 「ていうか、サークルの勧誘うざいよね」 凛が振ると亜季瑠が誇らしげにサークル勧誘のチラシを扇のように広げてうちわのように扇ぐ。 「まー、うちらは美人やから。どのサークルも入ってほしくてこんなにチラシが」 咲良が冷静にパソコンの画面を見せる。 「私達が勧誘を受けたサークルのうち10%がマルチ商法絡み、15%が飲みサーで真面目な出会いは望めない、20%がサークル存続の危機による人員確保目的。合計45%がまともな勧誘ではありません」 咲良の分析した円グラフを見て、凛はガッカリして溜め息をつく。 「美人だとバカっぽく見えて騙しやすいと思うのかもね」 陽葵がのんびりと言う。亜季瑠は一枚のサークルのチラシを選び取って宣言する。 「ここに入ろう、お笑い研究会。四人で美人過ぎるコント師やろうよ」 リーダーシップが強い亜季瑠の一言で四人はお笑い研究会に入った。  蕎麦屋のおかもちを両手に持ってバランスを取りながら振り付きで歌う、SPEEDの『steady』は、四人の生まれ年ソング。中学校から一貫校で、附属大学で初めて共学になる。四人は中学校からの友達。  歌の入りでおかもちを振り回し、サビではおかもちから重ねたざるそばのセイロを取り出して、落とさず器用に振り付け通りのまま手を上げる。このシュールな芸がYouTubeでバズった。しかし、バスった後の収益の取り分を巡り、ネタ作りをした亜季瑠と他の三人の間に亀裂が走る。亜季瑠は女ピン芸人を目指し、他の三人はトリオとして漫才に走る。 トリオの方では、のんびり屋に見えた陽葵が大手広告代理店勤務の彼氏を作る。その男の取り合いが始まる。鳶が油揚げをさらうように、最終的に亜季瑠がその彼氏をかっさらう。亜季瑠はお笑いへの熱もすっかり冷めて、手堅く証券会社の内定を貰う。亜季瑠の一人勝ち無双モードに、三人は大学入学時に四人で話したファミレスで、亜季瑠の悪口で盛り上がるラスト。 全10話の連続ドラマは、大好評で再生回数も伸びた。 大学生活で実際にあったことをネタにして、書籍の『女の友情はライスペーパーより薄い』とは全く違う内容になっている。書籍の方は、部活のレギュラー争いで友達をいじめで蹴落としてスポーツ推薦を奪う後味の悪い話。しかもいじめられた方がいじめの濡れ衣を着せられる。 ダークな人間模様の書籍に対して、コミカルでテンポよく進む配信ドラマは書籍より有名になった。  そんなとき「クラウド・ガールズ」の動画のコメント欄に不穏なコメントがついた。 『いつも見てるよ、亜季瑠ちゃん。もうすぐ会えるね。お腹がすいた狼さんだよ』 ただのイタズラだと四人は気にも止めなかった。若い女子目当ての変な男もたまには紛れてる、「クラウド・ガールズ」は嫌がらせコメントも有名人の証だと有頂天だった。 その陰でもう一つ、目立たないコメントがあった。 『同じタイトルの書籍を知っています。クラウド・ガールズさんのドラマも書籍の方もどちらも面白いです。これからも配信を楽しみにしています。SPEEDの曲でおかもちは笑えました、その発想力が凄いですね』 その目立たないコメントは、書籍の方の『女の友情はライスペーパーより薄い』の作者、下川ちさが別アカウント名で書いたものだった。下川ちさは亜季瑠に向けられた不穏なコメントにも気づき、そのコメント主が他の動画に残したコメントをつぶさに確認していった。そして、その男のSNSも探し当てた。 「袖すり合うも多生の縁、クラウド・ガールズの子達を守らなきゃ」  小説家の下川ちさの本業は、なんと素行調査や浮気調査を専門とする探偵だった。
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