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「おーいマルク、カゴ持ってきてくれ」
「はーい、お父さんこのカゴでいい」
「それでいいよ、ありがとう」
マルクは、はしごに昇っている父カルロスの言葉に促され、産まれたての赤ん坊がすっぽり入るくらいのカゴをカルロスのところへ持って行く。
「お父さん、そんな高いところにもさくらんぼがあるの」
「あるよ、この木だけは本当に特別だな」
「はいカゴ、取れる」
「ありがとうマルク」
カルロスはマルクが持ち上げているカゴを右手で受け取ると、左手でさくらんぼを取り始め、カゴの中へと入れた。
カルロスがいるさくらんぼの木は、他の木よりもひときわ大きい。
他の木が1メートル程に対し、この木だけは5メートル程あった。
そんな大きな木に、さくらんぼが高低差関係なく実っている。
「お父さん、僕は下の方を取るよ」
「ここは俺がやるよ、マルクは他の木になってるさくらんぼを取ってくれ」
「わかった」
マルクはカルロスから離れ、別のさくらんぼの木に移動した。
マルクとカルロスが住む村は、自然豊かなところだ。
草原がはるか先にまで広がっている。
春になれば花が咲き始め、夏にかけてさくらんぼがたくさん実る。
マルクとカルロスは、さくらんぼの収穫を毎年行っている。
今年もその季節がやってきたのだ。
二人はカゴいっぱいにさくらんぼをもぎ取る。
「今年もたくさん取れたな」
「うん、楽しかった」
カゴいっぱいに入ったさくらんぼを前にして、二人から笑顔がこぼれる。
「来年も楽しみだね」
マルクが問いかけると、カルロスから笑顔が消えた。
「そうだな」
カルロスは、大草原の向こうにそびえ立つ山脈をじっと見つめていた。
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