美しい村

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成人男子のいない村に活気はなかった。 子どもたちの遊び声が聞こえない。 村のみんなが戦争に対する不安を抱いているからだ。 この村が戦争被害にあうかもしれない。 そう考えた村長の意向で避難訓練が行われた。 村には地下防空壕があり、村長が鐘を鳴らすと、みんながそこへいち早く避難すると言う訓練だった。 地下防空壕の中はとても広かった。 村の住人みんなが横になっても、人が通れるくらいの余裕がある程だ。 「戦地に行った男たちが作ってくれたんじゃ、だけど使わないことを願いたい」 村長の言葉に、村人みんなが首を縦に振った。 「村長」 「どうしたマルク」 「もし敵が攻めて来たら、この村はどうなるの」 「なくなってしまうだろうな。何もかも」 「さくらんぼの木もなくなっちゃうの」 「なくなってしまう。だからそうならないように、みんなで祈ろう。祈るしかないのじゃ」 村長は泣いていた。 それにつられて、泣き始める村人もいた。 「戦争なんてなくなればいいんだ」 そう言ったマルクの目からも涙がこぼれていた。
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