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村にいるみんなが、戦地へ行った男たちの帰りを待った。
そんな想いも虚しく、冬が遠のき、春の訪れが近くなる。
花が咲き始め、さくらんぼの木にも実がなり始めた。
山脈の向こうで戦争が勃発しているなんて考えられない。
それくらいの穏やかさが、まだこの村にあった。
「今年は一人でさくらんぼを収穫しなきゃ」
そう言いながら、マルクは一番大きなさくらんぼの木を眺めていた。
その時だった。
『ドカーン』
とてつもなく大きく、今まで聞いたこともない音が村全体に響き渡る。
「爆弾だ。敵が来る。逃げるぞ」
村長が鐘を鳴らす。
それを聴いた村の人々は、地下防空壕へと向かった。
山脈の方から何かが見える。
敵の兵隊だ。戦車も見える。
それは数え切れないくらいの人数だった。
「マルク何やってる。逃げるぞ」
村長に促され、マルクも防空壕へと急ぐ。
『ドカーン、ドカーン』
マルクの背後から、あの音が再び響き渡る。地面が揺れる。
防空壕に到着したマルクは、身体を翻して後方を見る。
「えっ、何で」
マルクは驚く。
そこにあるはずの家や木々たちが燃えていた。
さくらんぼの木も燃えている。
「やめろ、村を壊すな」
マルクは叫ぶ。これでもかと言うほどの声を出すが、その声も虚しく、村は壊されていく。
「マルク何やってる、死ぬぞ」
村長がマルクの腕を引っ張り、防空壕へと入る。
「やめろ」
そう叫びながら、マルクは泣いた。
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