3人が本棚に入れています
本棚に追加
防空壕に入ってからどれくらいの時が過ぎたのだろう。
あれほど続いていた爆発音が聞こえなくなった。
村長が防空壕の扉をそっと開けて、外を見る。
「誰もいないようじゃ」
その言葉にみんなが安堵して防空壕から出るが、そこにも地獄が待っていた。
大地は荒れ、砂ぼこりが舞っている。
自然なんてどこにも見当たらなかった。
何もかもがなくなっていた。
「これからどうすればいいの」
マルクが囁く。
誰も答えてくれない。
みんな顔を上げようとしなかった。
その時「おーい」と声がする。
その声につられて、みんなが頭を上げた。
どこかで聴いたことのある声。
砂ぼこりの向こうに何かが見えた。
「あれは、我が国の旗じゃ」
村長の言葉に、みんなが喜ぶ。
抱き合う者、天を仰ぐ者、涙を流す者
様々だった。
旗を掲げた人がこっちに向かって手を振っている。
それだけではない。
その旗を取り囲むように、数十名はいるであろう人々が手を振っていた。
「お父さん」
そう声を出したのはマルクだった。
マルクは旗がある方向に向かって走り出す。
それを見た村人も走り出した。
戦地へ行った人たちとの再開に、村人たちは喜びをあらわにした。
マルクもそうであった。
「おかえりなさい」
「ただいま、よく頑張ったなマルク」
「お父さんこそ、無事に帰って来てくれて良かった」
マルクとカルロスは、互いを抱きしめる。
「もう会えないと思ってた」
「会えてるじゃないか、大丈夫だよ。もう泣くのはやめよう」
カルロスはマルクの顔に手をあてて、涙を拭き取る。
「マルク、あれを見てみろ」
カルロスが指差した先には、大きなさくらんぼの木が倒れずに残っていた。
最初のコメントを投稿しよう!