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理紗さんの前で、佐伯さんは膝立ちになる。
「理紗、もし、まだ俺が理紗の心の中にいるのなら、一緒に暮らさないか?
今更何を言ってるんだと思うだろうけど、今だから言える。10年前は交わらなかった未来が、やっと重なったんだ。
俺の心の中には、ずっと理紗がいたよ」
そう、だったんだ。
理紗さんの好きな人は、佐伯さんだったんだ・・。
「理紗、会社は俺が責任を持って引き受ける。だから、理紗は佐伯のところに行けよ。一緒にニューヨークで暮らせるんだ」
「えっ、ニューヨークで? でも、東京にお店が・・」
「優秀な後輩に譲ったんだ。そしたら、それを知った圭さんが、俺に店を任せたいと言ってくれて」
「ま、雇われ店長だけどな。圭はオーナーとして居座るらしいぞ」
みんなが、理紗さんの幸せを願っているのを感じた。
でも、理紗さんはとても迷っているように見える。
「理紗、愛する人と一緒にいるのって、とっても幸せよ。理紗にも、それを知ってほしいわ。ねぇ、潤さん」
「小夜子、それは恭介に聞いてみたらいいんじゃないか?」
上手い流れで潤さんに話を向けられた。
「母さん、理紗。俺、翔子にプロポーズしたんだ。何の準備もなく、気持ちのままにね。そんな俺でもいいと受け入れてくれて、今、すごく満たされた気持ちだよ」
そう言って私を見た彼に、照れてしまって思わず俯いた。
「まぁ、本当? 良かったわね、恭介。
・・・・理紗、理紗も思うままに生きていいのよ。貴弘と一緒にいるのが理紗の望みじゃなければ、別の・・理紗が幸せだと思う生き方をしていいの。潤さんは私が、会社は恭介が引き受けるわ」
ニコッと微笑みかけた小夜子さんに、理紗さんは小さくため息をつく。
「10年前は、本当にどうすることもできなかった。事業が過渡期で気が抜けなくて、ママはどんどん病気が進んで・・。東京で勉強したいって言った貴弘と、一緒には行けなかった。
もう、全部諦めていたのに、今になって・・こんな・・・・」
理紗さんは、両手で顔を覆った。
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