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確かに、気持ちは揺れていた。
でも、ニューヨークに来て彼と向き合ううちに、やっぱり彼を諦めることはできないと分かったから。
「うん・・・・。もう、元には戻れないと、私は、恭介さんとの未来を考えたいと伝えたの。
遠藤は、婚約者は・・理紗さんのことはどうするんだと最後まで粘っていたけれど、私は恭介さんの言葉を信じると言ったわ」
「そっか・・。いま思えば『外国に婚約者がいる』っていう噂を流した張本人は、遠藤さんかもしれないな。もちろん、翔子を取り戻すための・・」
「どうだろう。もしかしたら、本当にいたかもしれないし?」
横断歩道を渡りながら、私は彼の手をぎゅうっと強く握る。
そんな私の反応に、彼は苦笑いを浮かべた。
「ねぇ、恭介さん、それよりも!! 社長には、いつ話すの? 恭介さんがいなくなったら、社長は相当困るんじゃ・・」
「えー? 困らないって。俺よりも翔子が辞める方がダメージ大きいと思うよ。社長は翔子を相当推してたからね」
「えっ、私も辞めるの?」
自分のことをすっかり忘れていた。
そうか・・・・彼と結婚するなら、私もニューヨークに住むということなんだ。
「まぁ、どうしても辞めたくないなら、ニューヨークと東京のオンライン同居でもいいけど・・」
拗ねた表情の彼が、とても可愛く見えた。
彼のそばにいられないなんて、私の方が我慢できそうにない。
「それは・・ぎゅっとしてもらえないから、寂しくて無理だと思う」
「はぁ~、それ言っちゃう? 思い出すよ、翔子が『ぎゅっとしてほしい』って呟いた時のこと。俺あの時、聞き間違いじゃないよな・・って本当にドキドキしたなぁ」
「あー・・あれは・・」
いま思い出しても、汗が出てくる。
あの時は『誰かに』と、彼を特定していたわけではなかったけれど、気持ちの奥では、やはり彼を望んでいたのだと懐かしく思い返した。
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