I,m arive.

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 銭湯のは色んな客が居て、それを観察するのは意外と楽しい。  商店街のロータリーで魚屋を営んでいるハゲ親父は、我が物顔でジャグジーを楽しんでいた。  一見、黒髪のガラの悪い兄さんだな~って思って体を見ると、青い墨のようなものが彫られていて、「あぁ、まだ着色の予定は先なんすね~」って言いたいけれど兄さんの眼光が鋭いからやめておく。……もしかして股間にも入っているのではないかと思うと寒気を催してしまった。  あとは学生のノリでジャバジャバと風呂に入って常連に「てめぇらマナーも守れねぇのか、クソ野郎!」と喧嘩腰のおっさんが自分よりも一回りでかい学生にこっぴどく叱り倒し、学生がぺこぺこと謝っているが――俺を含めた客はガン無視。こんな所で油は売りたくはない。  そんな俺は今どき珍しい熱くて深い風呂に入り、全身を湯に浸らせた。今は1月のかなり寒い時期だから、余計に身に沁みる。  熱い風呂に入ると不思議なことに嫌なことが吹き飛んでいく気がした。つまらない仕事もそうだが、最近は家庭内がめっきり寂しくなってしまった。居づらさも感じる。だからここに逃げてきた。  ――自分に居場所はあるのだろうか?   機械的に行う仕事よりも崩れかけていく家庭をどうするべきかわからない自分がそこに居る。……ヨモギの青臭い香りが鼻を貫いた。
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