I,m arive.

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「ありがとうございましたー」  おっさんの言葉の機械的な言葉に背を向けて俺は息を吐いた。  嫌なことから逃げたくて銭湯に通っている。逃げ場が欲しかった。家には居場所がないから。家に帰っても食事は無いから。今の自分はただ働いて、娘のための養育費として入れていることしかしていない。  娘たちとも喋らなくなってしまった。……自分はただ金しか与えない父親かと思うと、鋭利な刃物で切り付けられたような感覚に陥る。  腹が減ったのでコンビニ寄って、肉まんと梅のおにぎりにお茶を買ってそそくさと出る。仕事終わりでもあったし、風呂に入って程よい疲れも出たから腹が空いたのだ。  街灯はあるが寒い夜道を歩いて熱々の肉まんを食す。噛むたびに心も体も満たされて……あぁ、自分は生きているのだなと痛感した。  生きていると色々な経験をする。自分の家が貧乏すぎて自立を決意し18歳で上京したこと。会社の寮に住んだが狭い6畳半に男二人でぎこちなく生活をしたこと。初めて自分の金で小さい炬燵(こたつ)を買ったこと。……これは本当に嬉しかった。  妻と喧嘩をした時は、食べようとしていた揚げたてのコロッケを怒りのあまり捨てられたこともあった。  ――そして、紆余曲折あって結婚して……一人の命を授かった。そして二年後にも授かることができた。
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