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編入した小学校は、いい学校だった。
児童のレベルは高く先生は熱心だ。
でも、スクールバス発車までの小一時間、どことなく気だるい放課後。
内緒話する子供達の間に時折、得体の知れない陰気な空気が漂うことに、私は気が付いていた。
その暗さは、育ちのいい子供達の朗らかさが溢れるこの学校にはまるで似つかわしくなく、私に奇妙な居心地の悪さを感じさせた。
やがて、それに耐えかね、私は転校初日に友達になった背の高い同級生に詰め寄った。
「一体、みんな放課後に何の話をしてるのか」と。
屁理屈を並べ、話をはぐらかそうとしていたその子も、私の剣幕に押し切られ、とうとう口を割った。
「『赤い人』が、また出たの」と。
どの教室の窓からも見える隣の小さな丘は、港が一望できるため、昔からよく軍事的に利用されていたのだそうだ。
確かに、旧日本軍の侵攻に備えて作られた防空壕や大砲等も、丘にはいまだに残されていた。
その丘の斜面に忽然と「赤い人」が現れるのだという。
しかし、その姿を見た者はわずか数人で、みな、ただ赤い人を見たとだけしか話そうとしない。
結局のところ「赤い人」が一体何なのか詳細は全く分らず、そして、大人は誰一人として「赤い人」を見たことがないのだそうだ。
ありがちな学校の怪談というにも、これでは何が怖いのやら全くピンとこない。
もしかして、新参者の転校生をかついでいるのかもしれない。しかし、放課後、ヒソヒソ話をする子供達の周囲には、相変わらず薄暗さが漂い、それは私を漠然と不安にさせ続けた。
ある日の授業中、問題を早々に解き終わった私は、窓の向こうの丘にふと目をやった。
一度黒板に視線を戻し、再び窓を見ると、丘に「赤い人」が立っていた。
それは午後の陽射しの中、枯草色の斜面にできた赤いしみの様だった。
頭から爪先まで真赤でのっぺらぼうの人影は、しばらく一か所に佇んでいたが、急に駆け出し、遮る物もない丘の斜面から不意に消え失せた。
おわり
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