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事件が起きたのは、そのパーティーの真っ只中だった。
「あー!」
主婦らしき太った女性の悲鳴で、その場は騒然となった。
「魔、魔女だ!また料理が消えたよ!」
女性はそう言ってテーブルの中央を指したが、僕にはそこに料理が本当にあったのかどうかさえわからなかった。
「本当だよ!ほら、銀の燭台と、ワイングラスも一つ無くなってるじゃないか!」
大方、誰かが片付けたんじゃないだろうかと僕は思ったが、村人たちは騒然としている。
「魔女だ!」
「魔女だ!」
と、口々に叫ぶ村人たちを一応なだめ、内心ちょうどいいやと思いながら、
「パーティーはもうお開きにして、それぞれの家に戻りましょう。あとは僕に任せてください」
と言って、村人を解散させた後、僕自身もあてがわれた宿の部屋へと入った。
その時だった。
〝フ……フフフ〟
不意に笑い声が耳元に響き、僕はハッとして周囲を見回した。
「誰だ?!」
紛れもない、魔力の波動。
〝……待っているぞ。早く私に逢いに来ておくれ〟
どこか浮かれたような、妙に色気のある声。
まるで愛しい者でも呼ぶようなその囁きは、300年も生きた老女というよりも、まだ若い、艶やかな美女を連想させた。
おっといけない。これも魔女の幻惑の魔法かなんかだろうか。
しかし、そう囁いていっただけで、魔女の気配はすぐに全くしなくなってしまった。
とにかく……まだ危害を加えてくることも無さそうだったので、僕は旅の疲れを癒すことにした。
その晩は、何故か自分でも不思議なくらい、とても気持ちよく眠ることが出来た。
警戒心が無いと思われても仕方が無いが、なんだか僕には……魔女に対する恐怖というものが、さっぱり浮かんでこなかったのだった。
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