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翌日は霧もすっかり晴れ、昨日感じたような陰鬱さも、どこかに行ってしまったようだった。村人は勇者の来訪に浮かれ、今度こそ魔女を退治できるという期待に満ちている。まあ、それでも中には、どうせ今回も駄目だろうと嘲っている者はいるものだが。
道に惑わされると聞いたので、数日分の携帯食を買い、その他薬品類など一通りそろえながら、僕は情報を収集して回った。
大体の話は昨日村長から聞いたものと同じだったが、意外なことに、僕と同じように魔女に対する恐怖を感じないという村民も何人かいて、僕は驚いた。
「あの魔女は、決して悪い魔女ではないと思うのよ。だってね、ひどい重傷を負った戦士様たちでも、必ず森を抜け出せるのよ。いいえ、抜け出したんじゃない。あれは、きっとあの魔女が森の外まで運んでくれているのだと思うわ」
「食事だって、同じ家から連続して盗まれるわけじゃない。特に貧しい家なんかは、絶対に被害に遭わないんだ」
何故食事が、しかも毎日というならまだしも時々盗まれるのか。一体魔女とやらは何を考えているのか、聞けば聞くほどわからない。
話を聞いた限りでは、少なくとも人々を恐慌に追い込むような悪さは一切していないように思える。むしろ、どこか子供じみた悪戯の話ばかりだ。怪我をした戦士たちだって、それは魔女本人ではなく、森のモンスターにやられたのかもしれないのに。
まあ、それが三〇〇年も続いたら、不安も積もり積もってくるのかも知れないが……。
だいたい、森の中からあの塔が突き出て見えるのが、また不気味だ。なんだかいつも魔女の目にさらされている気がして、落ち着かないと言うのもあるだろう。
「それでもね、あの魔女の魔力は異常なのよ。いいえ、本当にただの魔女なのか……もしかしたら、本物の悪魔があそこにはいるのかもしれないわ」
「年々森に見知らぬモンスターが増えていっているのは確かだ。奴らがいつ村を襲いだすかと思うと……。あの魔女が仲間を呼んでいるんだ。きっと今に、恐ろしいことをしでかすに違いない」
一部に味方はいるものの、魔女はこの村にとっての災厄であるという意見は、やはり圧倒的であった。
そもそも、一体その魔女は何者なのだろうか。
何故三〇〇年前に、あの塔に魔女が封印されたのか。そして、何故それだけの魔力を持ちながら、とっくに弱まっているはずの結界の中に、今もなお留まり続けているのか。
何か手がかりになるようなものがないかと村の図書館に行ってみると、そこで古い歴史書の中に面白い文献が見つかった。
〝*テ**国の王女***ア、不治の病より生還す***魔に憑***の*塔に軟禁****〟
所々、文字が擦り切れていて読めないが、どこかの国の王女が魔に憑かれて塔に軟禁された……と言うのは、もしかして、この魔女のことじゃないだろうか。それにしても、魔に憑かれたとはいえ人間が三〇〇年も生きているとは信じがたいが……もしかしたらこの王女自身は死んでしまって、憑依した魔物が彼女の体を使って悪さを働いているのではないだろうか?
僕は勝手にそんな風に考え、その王女を哀れに思った。
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