POLICE

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「あーもう! 面倒くさい◯◯!」  大声を上げたのは女武闘家だった。しかし。 《勝手ですいませんが、今の発言についてはこちらで語尾の訂正をしました》  すぐに待ったがかかった。 《「◯◯」とか「■■」などの『女性キャラ言葉』をリアルに使っている女性は少数派で、ジェンダー的に不適切な可能性があります。もう少し中性的な語尾でお願いします》 「いやいやいや」  反応したのは意外にも魔王側の女幹部だった。 「そんなことを言われてもさ。アタシら、こういうちょっと鼻にかかった言い回しでキャラを作ってんの◯? そもそも、そんなことを言われたら誰が喋ってんだか分からないじゃんか。漫画やテレビじゃないんだし」 《その辺りの『誰が喋っているのか分かりにくい問題』は筆者の技量でどうにかしてください》  多分、無理だと思う。 「あー……ちょっといいかのう」  賢者が手を上げる。 「老人言葉の『じゃよ』とかもよく槍玉に挙げられるんじゃが、あれは元々江戸時代の芝居などで使われ始めた『役割言葉』じゃからのぉ。大元は古い京言葉じゃ。その辺は別に根底に差別意識がある訳ではなく、むしろ古典に対する敬意じゃと思うがの」 《うーむ、そうきましたか。ではそういう立場でご発言されているということで特例を許可します》 「いや、意外といい加減だな」  勇者が呆れるが。 《そんなことはありません! 価値観というものは常にアップグレードされていくものなのです。ときとして、その瞬間に次のステージに上がることもあるのです》   「ふん! 何か屁理屈にしか聞こえないけど、まあいいわ。とにかく私はそっちの武闘家だか女喧嘩y……」 《待ったぁ!》   「今度は何よ!」  ◯幹部が怒鳴ると。 《まず特定の職業に『女』をつけるのは男尊女卑を助長する恐れがあるので、語頭の『女』は消してください。それとy……じゃなくて『屋』の呼び捨ては職業差別に当たります。『何とか業』または『何とか屋さん』などならセーフです》 「……ええっと、そっちの喧嘩業の方をこ……じゃなくて決着を付けたく存じますが」  警戒しすぎて途中から敬語になってしまい、◯幹部は口を閉じた。それを見た◯武闘家がにやりと笑う。 「ふん! あなたみたいな素性の知れない化け物があたしに勝てると思って? こう見えてあたしはドラゴンの血を引く……」 《それもNGです!》 「何が!」  ◯武闘家が頬を膨らませる。 《家系やら種族によるマウンティングは身分差別の助長を肯定しかねません。ただちにその設定を取り消してください》 「待ってよ! だったら某『隠居老人を連れて全国を行脚するドラマ』はどうするのさ?! 最後は必ず身分の違いで決着させてるじゃん!」 《え? ああ、ええっと、あれは上司が規律違反を起こした部下を諌めているだけなのでセーフです》  ポリスは既得権益に弱かった。
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