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この若干白けた状況、もはや力ずくで打破するしかないと見たか、◯武闘家が「はぁぁ!」を気合を入れる。
すると◯武闘家の姿はたちまちに巨大化し、一匹の真っ赤な竜へと姿を変え、口から炎を吐き出す。
「これであの◯幹部を一気に消し炭にしてやる! 奥義・煉獄……」
《はい、ストォォプ!》
またしても中断が入る。
《今の技で敵幹部さんを火炙りにしようとしたでしょう?》
「当然でしょうが! 敵よ、敵!」
《ダメです。敵だろうと作品中で女性を残酷に扱うのは望ましくありません。OKなのは凍結、または封印までです》
「ならば儂が『封印の術』を使うかのう。これは逃れられんわ」
賢者の言葉に◯幹部が青い顔を更に青くするが。
《女性相手に先制攻撃は許可されません》
あっさり否決されてしまった。
「セーフ!」
◯幹部があからさまにホッとした表情を浮かべる。そして思いついたように。
「あ、アタシもう傍観者だから。手ぇ出さないから」
関係ない、とばかりに両手でバイバイしてみせる。
「まじぃ? ……あー何か、やる気無くしたわ」
◯武闘家が元の姿に戻る。
「と、とりあえず、相手の戦力を削ごうよ! あのケルベロスなら、こ……じゃなくて倒してもいいんだろ?」
魔法使いが杖に光を集めるも。
《ダメです》
またしても制止が入る。
《ケルベロスは地獄の『番犬』、頭が3つあっても犬は犬です。作品中において犬を◯すことは、世間に数多くいる愛犬家の皆様から御不興を買います》
「おい、待て! あれ、犬か?!」
魔法使いがその禍々しい3つの頭を指差すと、ケルベロスがじろりと睨み返してきた。そして。
「グル……グ……ワ、ワン! ワンワン!」
「お前、いつから犬になったんだよ!」
魔法使いが文句を言うが、こうなっては勇者側は手が出せない。
「貴様ら、揃いも揃って日和りやがって」
魔王が恨めしそうに睨むが『犬』も『元幹部』も知らん顔だった。
「えええ! じゃあ、倒していいのは魔王だけかよ?」
恨めしそうに魔法使いが嘆くと。
《はい。魔王さんは男性ですし、イケメンでもないので問題ありません。◯なない程度なら大丈夫です》
「待てやこら!」
今度は魔王が不服を申し立てる。
「儂がイケメンならセーフで、爺ぃなら半◯していいのか?! それこそ差別じゃないのか?!」
《問題ありません。イケメン敵キャラだと迂闊に◯すと腐女子からクレームがきますが、ブサイクなら何処からも批判がきませんので》
「特例とかないのかよ!」
《そうですねぇ。失礼ですがご出身は? どうして魔王になられたので?》
「いや、親が魔王だったからその座をそのまま受け継いだだけで」
《ではダメです》
特例申請は爆速で却下された。
「そのような設定は身分階級を是認する思想に繋がります。よってアウトです。惜しいですね。これがイケメンの闇落ちであれば話は別だったんですが」
「あー……思い出したが儂は昔、イケメンの」
《もう遅いです》
後付設定はダメらしい。
「もう観念しろ、魔王! お前はもうし…」
ここぞと勇者が声を挙げるが。
《ピピー! イエローカードです!》
突然、ポリスの声色がきつくなった。
《あなた今、某有名格闘漫画のセリフをパクろうとしたでしょう? 著作権の侵害は以ての外です》
「いや、違うって! ……んだも同然! っていうつもりだったんだ!」
勇者が慌てて否定する。
「それにそもそも、あのセリフってキメセリフっぽく語られているけど、実のところ原作中では最初の方に一回でてきただけで」
必死に弁明するも。
《セリフひとつでも、作品が特定可能なものはアウトです》
「……」
再びの沈黙が、辺りを覆った。
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